立命館の文化人類学者「研究は何でもOK」の驚異 アフリカでは古着商にもなる大胆な調査を実践

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
拡大
縮小

――今はどんな研究をされているのですか?

ケニアの「ビットペサ」(BitPesa)という仮想通貨について研究したいと思い、人類学の貨幣論などを勉強しています。

ブロックチェーンは、仮想通貨や暗号通貨を使った国際的な取引決済に使えますよね? でもそれだけでなく、地域の中で流通し、地域経済を創出するコミュニティー通貨のような使い方もできる。

ケニアのスラムでコミュニティー通貨がつくられたというニュースもあり、面白そうだな、と。だけど、現地に行って、ちっとも面白くなかったら、違うテーマになると思います。そうなったら、仮想通貨のことは忘れているかもしれません(笑)。

文化人類学は「何でもあり」

――「もはや、人類未踏の地はない」と言われます。そうした中で、文化人類学者たちはどんなフィールドを対象としていくのでしょうか?

昔ながらの文化人類学は、狩猟採集民や牧畜民を対象にしてきました。そうした人々もスマホを使う時代です。文化人類学は何でもあり。研究テーマは尽きません。

ロボットや科学技術を対象とした人類学も盛んになっています。ロボット開発者のラボや購入者のところにフィールドワークに行く。そういう分野でも人類学の理論は活用されています。

――応用の幅は広がっていると?

最新の人類学の議論も、かつての議論の積み重ねの上にあります。だから私は、古典的な人類学の重要性が増していると考えています。

例えば、ブロックチェーンは法定通貨(円、ドルなど)との関係がよく語られますが、人類社会において、複数の貨幣が同時に使われることはいくらでもある。人類学者の深田淳太郎氏が研究しているパプアニューギニアのトーライ人の社会では、貝殻貨幣を使っています。貝殻で税金を払えるし、法定通貨との互換性もある。

ミクロネシアのヤップ島で使われる石の貨幣は巨大で、パンと交換するようなモノではありません。公の場で誰から誰にモノが委譲されたかを宣言する、ある種の記憶媒体、記録媒体の役割を持ちます。貨幣の循環が成し遂げる目的は全然違いますが、システムとしては(取引情報を書き換えできない形で記録する)ブロックチェーンと似ています。

シェアリングエコノミーは「分配経済」。狩猟採集民の社会では、今でも分配は社会の重要な基盤です。そういう意味では、これからどんな経済社会がやってくるかを考えるときには、人類学の古典的なテーマが重要な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。

取材:末澤寧史=フロントラインプレス(Frontline Press)所属

Frontline Press

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT