――今はどんな研究をされているのですか?
ケニアの「ビットペサ」(BitPesa)という仮想通貨について研究したいと思い、人類学の貨幣論などを勉強しています。
ブロックチェーンは、仮想通貨や暗号通貨を使った国際的な取引決済に使えますよね? でもそれだけでなく、地域の中で流通し、地域経済を創出するコミュニティー通貨のような使い方もできる。
ケニアのスラムでコミュニティー通貨がつくられたというニュースもあり、面白そうだな、と。だけど、現地に行って、ちっとも面白くなかったら、違うテーマになると思います。そうなったら、仮想通貨のことは忘れているかもしれません(笑)。
文化人類学は「何でもあり」
――「もはや、人類未踏の地はない」と言われます。そうした中で、文化人類学者たちはどんなフィールドを対象としていくのでしょうか?
昔ながらの文化人類学は、狩猟採集民や牧畜民を対象にしてきました。そうした人々もスマホを使う時代です。文化人類学は何でもあり。研究テーマは尽きません。
ロボットや科学技術を対象とした人類学も盛んになっています。ロボット開発者のラボや購入者のところにフィールドワークに行く。そういう分野でも人類学の理論は活用されています。
――応用の幅は広がっていると?
最新の人類学の議論も、かつての議論の積み重ねの上にあります。だから私は、古典的な人類学の重要性が増していると考えています。
例えば、ブロックチェーンは法定通貨(円、ドルなど)との関係がよく語られますが、人類社会において、複数の貨幣が同時に使われることはいくらでもある。人類学者の深田淳太郎氏が研究しているパプアニューギニアのトーライ人の社会では、貝殻貨幣を使っています。貝殻で税金を払えるし、法定通貨との互換性もある。
ミクロネシアのヤップ島で使われる石の貨幣は巨大で、パンと交換するようなモノではありません。公の場で誰から誰にモノが委譲されたかを宣言する、ある種の記憶媒体、記録媒体の役割を持ちます。貨幣の循環が成し遂げる目的は全然違いますが、システムとしては(取引情報を書き換えできない形で記録する)ブロックチェーンと似ています。
シェアリングエコノミーは「分配経済」。狩猟採集民の社会では、今でも分配は社会の重要な基盤です。そういう意味では、これからどんな経済社会がやってくるかを考えるときには、人類学の古典的なテーマが重要な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
取材:末澤寧史=フロントラインプレス(Frontline Press)所属
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