東アジアと欧米、コロナで明暗分けた決定要素 国際的な感染症危機管理ガバナンスを構築せよ

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純粋な東洋でも西洋でもなく、両者を止揚する立場に生きることが日本の戦略的立ち位置だ(写真:fpdress/iStock)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

新型コロナ危機対応に成功する東アジア

新型コロナ危機によって、世界のパワーバランスに新たな趨勢が生まれている。東アジア諸国が、欧米諸国に比して国内の感染症危機対応に成功しているためだ。ブルームバーグ通信が本年11月に発表した、感染症危機対応と経済対策の両面からみた各国のランキングでは、上位15カ国・地域のうち、10カ国・地域が東アジアである。

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ここで言う東アジアとは、日本、中国、韓国、台湾、ベトナム、シンガポール、香港、タイ、オーストラリア、ニュージーランドである。これらの大半は、21世紀に入り、何らかの大規模な感染症危機を経験していた。

中国、香港、台湾、ベトナム、シンガポールは、数十人~数百人規模で重症急性呼吸器症候群(SARS)の事例を経験した(震源地の中国に至っては5000人以上)。韓国は、2015年に約200人に及ぶ大規模な中東呼吸器症候群(MERS)アウトブレイクに見舞われた。タイは、少数例だがSARSを経験すると同時に、公衆衛生・国際保健分野で長年アジアをまとめてきた老舗だ。大規模な感染症危機を経験し脅威認識を増したこれらの国々は、後に国全体の感染症危機管理体制を強化し、今回の新型コロナ危機に臨むこととなった。

一方、日本は、幸運にもSARSやMERSの流入を経験しなかった。政府の新型コロナ対策を検証した新型コロナ対応・民間臨時調査会(コロナ民間臨調)の報告書によれば、日本の感染症危機管理能力向上に重要な意味を持ったのは、H1N1新型インフルエンザパンデミック(2009年)と西アフリカのエボラ出血熱アウトブレイク(2014年)である。

ただ、前者で実施された大規模なオペレーションを総括し、体制強化を提言した「新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議報告書」の内容は、多くが活かされていなかった。それにもかかわらず、新型コロナ危機では低い死亡率を保ち、危機対応に従事する関係者と国民1人ひとりの奮闘で日本は何とか持ちこたえている。コロナ民間臨調は「泥縄だけど結果オーライ」で再現性が保証されないと評したが、死亡率を低く抑えるという結果に照らせば、成功国の1つとなっている。

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