フォルクスワーゲンの「EV大転換」が危うい理由 ユーザー不在のクルマ作りが招く最悪の事態

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結果、世界各国で罰金を支払い、該当車輌に乗るユーザーには、賠償金を支払うことに加えて車両の改修を施すなど、莫大な資金を要することとなった。さらには、経営陣が一新される事態にまで陥ることになっている。

そのあたりから、フォルクスワーゲンのクルマ作りに対する哲学が変わっていったように感じられるのだ。

とはいえ、現CEOのヘルベルト・ディース氏も、カーガイであることに間違いはない。BMWに在籍していた頃も、MINIの開発を手掛けたり、自身も個性的なクルマに乗っていたりという経緯を持っている。

「ID.3」の発表会に登壇するヘルベルト・ディース氏(写真:フォルクスワーゲン)

それでも、事件当時のフォルクスワーゲンの経営状況を鑑みると、この大胆な方向転換は必至だったのだろう。また、同事件をきっかけに、パワートレインを電動化するEVシフトの方針を打ち出したことで、さらなる投資が必要となったのだ。

つまり、賠償金とEVシフトへの投資という莫大な費用を捻出するために、現在のラインナップに対する急激なコスト削減の方針となったというのが、僕の想像するところである。

ディーゼルエンジンを縮小してEVにシフトする大改革と同時に、異常なまでのクルマへのこだわりを持っていた経営陣の退陣が、大きく影響しているのだ。

言い換えれば、彼らはコストを顧みずに“いいクルマを作りすぎていた”とも言えるのだが、ディーゼルゲート事件がなければ、そんなコスト度外視のクルマ作りも上手くいっていたのだ。

そう考えると、必ずしも過去を全否定して、新しい姿勢を見せることはなかったのではないかと考えてしまう。おそらく、現行のT-ROCを以前の経営陣に見せたら「もう一度、作り直せ」と言われていたに違いない。それほどのデキなのだ。

コストダウンが苦手なドイツメーカー

かつて、メルセデスにも、コストダウンによる品質の低下が目立った時期があった。1990年代半ばごろだ。

その当時、アメリカの工場で製造されていた「MLクラス」は、フォードやクライスラーの大衆車と変わらぬクオリティーで、ユーザーを失望させた。そういった経緯を考えると、ドイツメーカーはコストダウンが苦手なのかもしれない。

突然のコストダウンという方向転換に焦り、混乱している時期であるとも考えられる。そうなると、正当なコストダウンの方法さえ確立すれば、フォルクスワーゲン車の品質も元に戻る可能性はまだまだ期待できることになる。

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