コロナによる「医師の離職」大量発生の実態 医療崩壊は、すでに身近で起きている
ケリー・マクレゴリー医師(49)がミネアポリス近郊に小児科クリニックを開いたのは2年前。患者とはクリニックでできる限りの時間を過ごし、保護者の疑問にも丁寧に答えてきた。
ところが、クリニックが軌道に乗り始めた矢先、新型コロナウイルスがアメリカを襲い、全国に広がり始めた。「個人経営のクリニックにとっては、ものすごくきつかった」とマクレゴリー医師は振り返る。
サージカルマスクが残り3枚だけとなり、患者への安全な処置が危ぶまれたこともあった。感染を恐れた家族からも避けられた。「オンライン診療も行ったが、クリニックの経営を維持していけるほどの規模にはならなかった」。
そして夫が別の州で新しい仕事を見つけたことで、クリニック閉鎖という苦渋の決断に至る。8月のことだった。「とてもつらかった。わが子も同然でしたから」。
閉鎖するクリニックが続出
クリニックを閉鎖しようとしている医師はほかにもたくさんいる。3500人の開業医を対象に、非営利組織の全米医師財団が7月に行った調査によると、コロナ禍の中で数千というクリニックが閉鎖されている。
ここ数カ月の間にクリニックを閉鎖したと回答した医師の割合は全体の約8%。1万6000カ所に相当するクリニックが消えたと同財団は試算する。加えて4%の開業医が来年中のクリニック閉鎖を予定している。
引退の時期を早めたり、医療業界を去ったりする医師や看護師もいる。年齢や基礎疾患など、自らの重症化リスクがきっかけとなる場合もあれば、感染拡大で急激に高まった現場の負荷に耐えられずにギブアップする場合もある。新型コロナで同僚や患者の命が奪われていくのを目の当たりにし、精神的な打撃から休養が必要になったケースもある。
ラリー・A・グリーンセンターと非営利のプライマリー・ケア(1次医療)協議会が共同で行った別の分析でも、同様のパターンが見られた。9月に調査した開業医のうち、自身のクリニックで新型コロナを理由に早期退職したか、早期退職を予定している人がいると答えた割合はおよそ2割に達した。すでに辞職者が出たか、辞職予定の人がいるとの答えた割合も15%に上っている。