コロナによる「医師の離職」大量発生の実態 医療崩壊は、すでに身近で起きている

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アメリカで新型コロナの感染拡大が再び加速するなか、開業医の不安は高まっている。約半数の医師がすでに精神的な疲労はピークに達していると回答。診療を続けていけるか不安視する声も多い。財政的な支援がなければ12月以降にクリニックを維持していける自信がない、と答えた開業医の割合は7%に上った。

家庭の事情から、医療現場を去ることを余儀なくされた医師もいる。

「正直な話、パンデミックがなければまだ働いていたと思う。この段階で引退する予定はなかった」。そう語るのは、ウィスコンシン州マディソンで麻酔科医として働いていたジョーン・ベンカ医師(65)だ。

医師が直面していた問題があらわに

ベンカ医師の娘夫婦は病院の集中治療室で管理職をしており、新型コロナの重症患者の治療にあたっている。娘夫婦には幼い子どもが2人いるが、新型コロナの感染者が急増した春に保育所は休業となった。そのためベンカ医師の娘には、子どもの世話を安心して任せられる人がどうしても必要になった。

「こんなふうにして仕事を終えたくはなかったんだけど」とベンカ医師は言う。「仕事のために自分を犠牲にするわけにはいかないが、家族のためだったら自分が犠牲になってもいい。そう考える人は多いのでは」。子どもの世話や年老いた親族の介護をするために職場を離れた仲間の女性医師はほかにも何人もいる、とベンカ医師は付け加えた。

コロナ禍によって、これまで医師が直面してきた問題に拍車がかかったともいえる。これは開業医と勤務医のどちらにも当てはまる現象だ。「パンデミックが始まる前の時点で、すでに多くの医師が心身の疲労で燃え尽きる寸前の状態にあった」と、アメリカ医師会の会長、スーザン・ベイリー医師は言う。

小規模なクリニックでは今でも、手袋やマスクといった個人防護具を十分にそろえるのが困難な状態が続いている。

ベイリー医師によれば、「大規模な病院や医療システムでは、個人防護具の調達についてはかなりしっかりとした体制が整っている」。しかし、小さなクリニックの調達は不安定になりがちだ。ベイリー医師自身、「(クリニックで使う)マスクを手に入れるのに、eBay(の通販サイト)を文字どおり探し回ったことがある」。

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