国道16号沿い好んで住む人が多いのは当然な訳 都市と郊外の住宅街と身近な自然が合わさる
実は、もっとも人が暮らしやすい「地形」を、地理的な条件を16号線エリアはたまたま備えていた。
それは、「見晴らしが良くて」「谷があって」「近くに海や大きな川がある」。これが16号線エリアの地形の特徴である。
16号線が通っているのは、三浦半島と房総半島という2つの半島と、あとは東京湾をぐるりと取り囲む6つの台地の縁である。三浦半島の台地、下末吉台地、相模原台地、武蔵野台地、大宮台地、下総台地。台地の横には、相模川、鶴見川、多摩川、荒川、江戸川、利根川という一級河川が流れ、東京湾や相模湾、太平洋に流れ込む。
台地や丘陵の縁には、雨水の力で必ず小さな谷ができる。谷の源流からはきれいな水が流れ出し、山を削り、湿原が広がる扇状地をつくり、川の流れはより大きな川や海につながる。山と谷と湿原と水辺がセットの「小流域」が延々と連なっている。「地形」という視点で眺めると、16号線エリアは、こうした「小流域」の連なりなのだ。
人類は「小流域」地形を好み選んできた
人類は、この「小流域」地形を好んで選んで暮らしてきた。日本のみならず、世界中で。
特定の場所に対する人間の「愛」について、進化生物学者のエドワード・O・ウィルソンは、『生命の多様性』(岩波書店、1995)のなかでこう述べている。
「動物の種はすべて、その成員にとって安全と食物の両方の面で好適な生息場所を選ぶ」と。そしてウィルソンは生き物の一種である人間もその例外ではない、と力説する。では、私たちはどんなところを好んで選ぶのか。ウィルソンによればこんな場所だ。
「ほとんどの民族は、水辺にあって樹林草原が見下ろせる突出部を好んで住みかとする」。そのような高みには権力を持ち裕福な者の住居や偉人の墓、寺院、議事堂、民族の栄光を記念する碑などがよく立っているものだ。このような地勢は隠れ家ともなり、周囲を見晴らして遠くから嵐や敵の勢力が近づいてくるのをいち早く発見できる、眺望のきく有利な地点でもあった」
ウィルソンが定義した「人類という生き物」が好む地理的な条件は、まさに先ほど述べた「小流域」地形が連なる16号線に備わった地理的条件と一致する。
見晴らしのいい山=台地や丘陵があって、谷があって、湿原があって水辺へとつながっている。まったく同じだ。
だからこそ、アフリカからはるばるやってきた旧石器時代の人類は、「16号線エリア」という場所を好んで選んだ。その後、やってきた人々も同様だ。人々は16号線の「地形」が好きだったのである。
『ブラタモリ』を多くの人が好むのも、都会の中の凸凹地形を見つけて楽しむ人がいるのも、もしかしたら私たちの中に潜む小流域の地形に対する「愛」と関係しているのかもしれない。
世界中の「公園」や「庭園」を調べてみると「小流域地形」が再現されているケースがとても多い。高低差をつけて、高いところから見渡せる場所をつくり、蛇行する水の流れ、そして池=湿原をこしらえ、緑を植える。
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