国道16号沿い好んで住む人が多いのは当然な訳 都市と郊外の住宅街と身近な自然が合わさる

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「小流域」単位で暮らし、大地を把握するというやり方は、世界のあちこちでみられる。

ハワイには、先住民族の間に古くからアフプアアという土地支配の概念がある。ハワイ諸島はすべて火山島だ。島の頂点である火山のてっぺんからは、四方八方に雨水がつくりだした川が海に向かって流れ出し、いくつもの流域をつくっている。その流域それぞれを土地の単位として管理することをアフプアアと呼ぶのだ。

水源の管理、水資源の管理、川沿いの生態系の管理、木材の管理、海の幸の管理を、それぞれのアフプアア=流域で行う。ハワイの先住民も、16号線エリアの先人たちも、同じような土地の愛し方をし、同じような暮らしをしていたのだ。流域単位で土地を愛し、利用し、暮らすのが、世界共通だったことがこれでわかるだろう。

では、なぜ山と谷と湿原と水辺がワンセットになった小流域の地形を、人間は好むのか。それは、高台に自分たちが暮らす場所を確保でき、谷の源流できれいな水を入手でき、餌となる生き物がたくさん集まってくる、もっとも暮らすのに都合のいい場所だからだ。

ウィルソンは、世界に先駆けて、多様な生き物が暮らす「生物多様性」の重要性を指摘した1人でもある。そのウィルソンの発想のユニークな点は、「人間には無意識に他の生命とのつながりを求めるものである」と考えたことだ。つまり、人間には自然が豊富で生き物がたくさんいる環境を愛する本性があるというのである。

その人間の本性を、ウィルソンは「バイオフィリア(生物愛)」と呼んだ。

16号線エリアを「旅」すると発見がある

多様な生き物が暮らせる環境は、人間という生き物にとっても暮らしやすく、なにより他の生き物=餌の確保にも適している。人間の自然好き、生き物好きは、後天的な趣味などではない。人間が進化のプロセスで獲得した、この地球でサバイバルする上で必須の性質というわけだ。

新型コロナウイルスという「自然」の脅威を受けたときに、多くの人間たちが選択したのがウィルソンの唱える「バイオフィリア」(生物愛)とつながる、身近な自然を愛でる行為だった、というのは興味深い。

『国道16号線 「日本」を創った道』(新潮社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、遠くにいけなくなった人たちの多くが、近所の公園や緑地、河川敷や海岸を訪れるようになった。読者の中にも実際にそんな行動をとった方がいらっしゃるかもしれない。あれが内なる「バイオフィリア」が発動したせいだ、というのはいささか短絡的に過ぎるかもしれないが、16号線エリアのような、人工的で便利な都市機能と、郊外の住宅街と、そして身近な自然が同じ場所にセットで存在する、という地域は、暮らす場所として積極的に選択する層が出てくる可能性が高い。

首都圏に暮らしている方は、よかったら一度16号線エリアを「旅」すると、いろいろな発見があるはずだ。そのとき、ぜひ商業施設やアミューズメントパーク、軍事基地ばかりではなく、自然と地形に目を向けて欲しい。このエリアの不思議と魅力は、地形が下支えしているから、と私は考えている。

柳瀬 博一 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 教授

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やなせ ひろいち / Hiroichi Yanase

1964年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社、「日経ビジネス」記者を経て単行本編集に従事。『小倉昌男 経営学』『日本美術応援団』『社長失格』『アー・ユー・ハッピー?』『流行人類学クロニクル』『養老孟司のデジタル昆虫図鑑』などを担当。「日経ビジネス オンライン」立ち上げに参画、広告プロデューサーを務める。TBSラジオ、ラジオNIKKEIでラジオパーソナリティとしても活動。2018年3月日経BP社退社後、現職。共著書に『インターネットが普及したら僕たちが原始人に戻っちゃったわけ』『混ぜる教育』など。

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