事件、事故、謎の伝染病、逃亡騒ぎ、そして男女関係をめぐるトラブル……これは「警視庁密着24時」の話ではない。「海外ロケ番組」で実際に起きたトラブルの数々だ。それほどまでに、外国を舞台にして撮影・制作される番組には「想定外の事態」がつきものだということだろう。
さまざまなテレビのプロたちはどんな仕事をしているのか、そしてどんな問題にいま直面しているのか、を取材して「現場の声」をお届けしている連載「テレビのミカタ」。
前編(海外ロケ支える「リサーチャー」凄すぎる準備力)では、「海外ロケ番組」の国内における準備の大変さや取材謝礼をめぐる問題などを紹介した。
今回の後編では「現地で発生する想像を絶するトラブルの数々」や「コロナ禍の今、海外ロケ番組の制作現場はどうなっているのか」などについて紹介したい。
誘拐されたADの身代金で7000ドル支払い
「『ADがゲリラに誘拐されました』という一報を受けたときには、さすがに自分の耳を疑いました」と話すのは、40代半ばのプロデューサー・Aさん。名前を言えば誰もが知っているような有名な海外ロケ番組にいくつも関わってきた。
「東南アジアのある国でロケをしていた最中なのですが、『マオイスト』と呼ばれる毛沢東主義の共産ゲリラにロケ隊が突然襲われたのです。現地からの電話では『仕方がないから男のADを人質として差し出してロケを続行中だ』と。
「おいおいどうするんだ!」という話ですが、ゲリラから1万ドルを要求され、身代金を支払うことでADは無事解放されました。現地のコーディネーターが申し訳ないと思ったのか必死で交渉して、身代金は7000ドルまで値下げされたんですけどね」
海外ロケ番組はそれほど命がけの仕事だ。Aさんは夜中も必ず電話を取れるようにして寝ているという。深夜にかかってくる電話=海外からのSOSである可能性が高く、かかってくるたびにいつもドキッとするらしい。
「ある国では、移動の際に空港でカートごと一切合切を盗まれたことがあります。何より一番困るのは取材したテープがなくなったこと。仕方がないので、現地の新聞に広告を出して『この国の文化を日本に伝えるために撮影したテープです。お願いだからテープだけ返して』と訴えかけ、懸賞金も出しました。そしたらテープは返ってきたんです! あのときは嬉しくて泣きそうでした。撮影機材やお金は返ってきませんでした」
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