日本がアジア新興国のデジタル化に学ぶべき事 普及した分野とそうでない領域で差も出ている

拡大
縮小

在宅勤務も同様であり、特に新興国で大部分を占めるようなインフォーマル経済では、在宅勤務が不可能なものが大多数である。先進国ですら設備や端末の面で対応が難しいなかで、「危機をチャンスに変える」という言葉を現実のものとすることは容易ではない。

もう1つ、新型コロナウイルス蔓延という状況下で注目を集め、また深刻な状況をもたらしたのは、虚偽の情報が瞬く間に広まったことである。WHOはこれを「情報の急速な伝染(Information Epidemic)」を短縮した「インフォデミック(Infodemic)」と呼んだ。「ニンニクがコロナウイルスに効く」「15分ごとに水を飲むとよい」といった比較的無害な虚偽情報から、特定の人種を中傷するものや、パニック買いをもたらすような虚偽情報までさまざまだ。

事実に基づくメッセージを広める活動も

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フェイクニュースの問題が、パンデミックという危機のなかでより過激な形で現れたといえる。WHOも根拠のない噂を否定するファクトチェックのページを立ち上げたほか、各国に同様のサイトが登場した。

加えてWHOはツイッター、インスタグラムやユーチューブに自らの公式アカウントを開設して投稿したほか、これらのソーシャルメディアで多くの視聴者を集める投稿者(いわゆるインフルエンサー)と連携して、事実に基づくメッセージを広める取り組みも見せた。

リスクを抱えつつも、コロナ禍のなか、新興国のデジタル化は止まることなく続くだろう。

伊藤 亜聖 東京大学社会科学研究所准教授

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いとう あせい / Ito Asei

1984年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程満期退学。博士(経済学)。専門は中国経済論。人間文化研究機構研究員などを経て、2017年4月から東京大学社会科学研究所准教授。単著に『現代中国の産業集積―「世界の工場」とボトムアップ型経済発展』(名古屋大学出版会、2015年、大平正芳記念賞、清成忠男賞受賞)、共編著に『現代アジア経済論―「アジアの世紀」を学ぶ』(有斐閣、2018年)など。

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