トランプ「経済政策」がこんなにも人気の理由 どちらが大統領でも「米国第一主義」は続く
政治経済の伝統を無視するトランプ氏は、資本家と労働者階級の双方を味方につけるため、時として互いに矛盾する政策をうまく一体化させてきた。企業オーナーや投資家には大型の減税と規制緩和で、製造業者や鉱山業者、農業経営者には保護主義的な貿易政策と補助金で応じるスタイルだ。
その過程で、トランプ氏は移民やグローバル化といった重要問題に対する党のスタンスを混乱させ、「小さな政府」という共和党の神聖なる党是までぐらつかせた。自由貿易と緊縮財政を説いてきた共和党はトランプ氏の下で変容し、今では同盟国にさえ貿易戦争を仕掛け、平時としては史上最大規模の財政赤字を垂れ流し、主要な社会保障プログラムを歳出カットの対象から外すようになっている。
移民問題については、トランプ氏は別の方法で政治状況を変えた。トランプ氏は、移民は国民から仕事を奪い、犯罪を犯すとあおりたてた。そうすることで共和党と民主党の双方に見られる強硬派の感情をすくい上げ、「反移民」が共和党のスローガンであるかのような状況をつくり出したのだ。
民主党も立ち位置を修正
これを受けて民主党も立ち位置を修正。バイデン氏は移民擁護のスタンスを打ち出し、排外的なトランプ氏の政策を覆すと公約することになった。ただ、同氏は移民税関捜査局(ICE)の廃止という踏み込んだ提案は拒絶している。
さらに重要なのは、貿易政策に及ぼした影響だ。かつてグローバル化のメリットを訴えていたバイデン氏ら民主党幹部は、産業の国外移転や外国企業との競争といった論点で共和党に出し抜かれ、防戦を強いられるようになった。対抗策としてバイデン氏らは、かつて自らが否定した保護主義の要素を取り入れるようになっている。
つまり次の4年間を誰がホワイトハウスで過ごすことになろうとも、トランプ氏がシフトさせた経済政策は維持される公算が大きい。重点が置かれるのは、中国など外国との競争に脅かされたアメリカの雇用と産業。景気刺激に伴う財政赤字は伝統的に大きな懸念事項として強い反発を巻き起こしてきたが、もはやそこまで気にされることはなくなるだろう。
とはいえ、製造業がアメリカ経済に占める割合は比較的小さい。製造業は国内総生産(GDP)の11%。雇用も全体の9%に満たない。それでもトランプ氏は製造業の応援団長役を演じ続けている。トランプ氏が自らの手柄としたゼネラル・モーターズ(GM)やフォックスコン(鴻海精密工業)のアメリカでの雇用はその後、消失したり、実現しなかったりしたが、製造業の雇用は2018年に大きく伸びた(ただし、2019年には失速した)。
その結果、自由貿易に懐疑的な姿勢をとることの是非は選挙の争点とはならなくなった。これが前回の大統領選挙と違う点だ。