藤井聡太の人気を将棋界が生かし切れてない訳 大スターを最大限に生かす経済効果を考える

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ちなみに、囲碁人口は210万人(2018年、レジャー白書)、麻雀が580万人(同)。将棋と近い参加人口のスポーツを見てみると、バドミントン、登山が共に680万人(同)、ゴルフ練習場660万人(同)となっている。

将棋と似たような環境の麻雀や囲碁と比較すると、将棋はもともと一歩抜きんでた娯楽といっていい。ただ、囲碁は漫画・アニメ「ヒカルの碁」の大ヒットによって、一時的に大きな話題となったものの、囲碁人口を大きく増やし、市場規模を拡大させるには至らなかった。

ただ囲碁は将棋と異なり、中国、韓国と共通の競技であり、囲碁人口は世界で3600万人(世界の推定囲碁人口、日本棋院HPより、中国2000万人、韓国900万人)とも言われる。その点、将棋は日本独自のものであり、将棋は世界進出の余地が残っているとも言える。

さらに、チェスや囲碁と異なり、将棋はとった駒を自分の駒として生かせるルールのため、極めて複雑なゲームとなっており、AI(人工知能)もまだ人間の知能を凌駕できていないといわれる。 

人間同士の戦いに加えて、「AI対人間」という新しいカテゴリーで、世界中のだれもが参加して競うことができるオンラインゲーム「Eスポーツ」に発展させることも可能だ。

藤井聡太がもたらした経済波及効果とは?

さて、 藤井2冠の経済効果を試算するのは、そう簡単なことではない。周知のように、2016年10月に最年少棋士として15歳でデビューした藤井2冠は、加藤一ニ三・九段との初戦を端緒に、破竹の29連勝を達成し「藤井フィーバー」と言われた。

29連勝した時点で、日本将棋連盟(以下、連盟)はその広告効果を「185億円」相当に上ると発表している。テレビや新聞、ウェブ等で取り上げられたものを換算すると、ざっと185億円に達したとされている。確かに発売された公式扇子は即日完売し、各地の子ども向け将棋教室も昨年比で4割増の参加者となり、そのフィーバーぶりが話題になった。

とはいえ、扇子は2263円(税込み)、続いて販売されたクリアファイルも324円(同)、第3弾となったジグソーパズルも1620円(同)という具合に、いずれも少額だ。本気で経済効果を狙っているとは思えないが、29連勝のときは予期せぬ出来事で一気に偉業を成し遂げてしまったために、準備不足という面もあったのかもしれない。

あれから約3年が経過し、さまざまな意味で準備期間があったはずだが、連盟やタイトル主催者たちが、本気で藤井2冠の経済効果を狙いにいったとも考えにくい部分がある。

スポーツ雑誌『Number』でも取り上げられたように、将棋の棋士はある意味でアスリートと言っていい。そういう意味では、もっと棋士1人ひとりの収入が高くてもいいし、タイトル戦の賞金も高くていいのではないか。その実力を全体的にもっと高く評価できる環境、体制作りを急いでいいような気がする。

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