とはいえ、好きになって結婚したのだから、なんとかうまくやっていこうと伊保子なりに彼の金銭感覚に合わせて、節約を続けていた。
お金に対する考え方や使い方は、育ってきた環境が大きく起因するのだろう。
義太郎には頼る身内がなく、もう何年も天涯孤独の生活をしていた。物心ついたときに母はおらず、父は日々酒を浴びるほど飲み、家には寄り付かず、父方の祖父母に育てられた。お金には余裕のない幼少期、学生時代を過ごしたようで、ぜいたくを知らずに大人になった。
一方、伊保子はごく一般的な家庭に育ったが、両親ともに教育熱心で、高校を卒業後は海外の大学へ留学した。帰国後は、語学を生かした仕事につき、やりがいを感じながら楽しく仕事をしてきた。しかし、気づくと30代も半ばになっていたので、結婚をして子どもを授かり家族を築きたいと始めた婚活だった。
「大学時代に、いろんな国から来ている留学生と出会って、世の中にはさまざまな考え方や価値観があるのだと感じたし、1人ひとり顔が違うように、性格も違っていいのだと思っていました」
どんなタイプの人も個性として受け入れる。だからこそ、義太郎を好きになったのかもしれない。
「彼はそれまで会ったことがないようなタイプだったんですよ。結婚前のデートは、公園に行ったり、大自然の中を散歩をしたり。お金を使わないことをこんなにも楽しめる人を見たのは初めてだったんです。それが逆に新鮮でした」
出会いから半年後に、結婚を決めた
親しくなって、お互いの家を行き来するようになった。伊保子は、保護猫を1匹飼っていたのだが、遊びにきた義太郎に飼い猫がとても懐いた。
「彼の育った祖父母の家に猫が2匹いたようで、扱いにも慣れていました。動物好きに悪い人はいないと思ったし、猫と彼が楽しそうに遊んでいる姿を見て、ますます彼を好きになりました」
そして、婚活アプリでの出会いから半年後に、結婚を決めた。住む場所の話になったときに、「賃貸で毎月家賃を払っていくなら、買ってしまったほうがよいのでないか」ということになり、伊保子が貯金から頭金を出して、2DKのマンションを購入した。
ところが、一緒に生活を始めてみると、すてきだと思っていたはずの彼の考え方やライフスタイルに、少しずつ違和感を覚えるようになった。
「日用品も雑貨も、最低限の物しか持っていないんです。服や下着は、ヨレヨレになっても平気で着ている。靴下に穴があいていても、靴を履いてしまえば見えないからと平気で履いている。私自身、服や雑貨にお金をかけるほうじゃないんですが、ヨレヨレになったり穴が開いたりしたらさすがに捨てるので、それを平気で身に着けていることにもびっくりしました」
さらに新居の家具選びも、驚きの連続だった。
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