「いつになったらいいのかと聞いたら、ワクチンができたら、と言われて絶句しました。そんなに待てませんよ! 語弊があるかもしれないが、田舎でテレビばっかり見ているせいで、必要以上にコロナを恐れている年寄りの意見を聞いていたら、永遠に子どもに会えなくなってしまう」
どんなに小西さんが頼んでも、元妻は面会を許してくれない。コロナ前には当たり前のように行われていた別居・離婚後の親子の面会交流だが、同居親の感情次第で簡単に絶たれてしまう。小西さんは、やり場のない怒りに苦しんでいる。
子どもに会えない苦痛で精神科通い
離婚後、離れて暮らす親(別居親)と子どもが面会することに消極的な同居親は少なくない。関西地方在住の古川正樹さん(仮名、40歳)は、6歳の子どもの父親で、2年前に離婚した。夫婦どちらにも借金や暴力、浮気などの非はなく、離婚の理由は、性格の不一致。
「当時、息子は4歳でかわいい盛り。離れて暮らすことは耐えがたかったのですが、すでに夫婦仲は修復不可能なほどギクシャクしており、息子にも悪影響が出始めていたので、いったん私が家を出ることにしました」
別居前の話し合いでは、子どもにはいつでも会える、ということで合意していた。ところが、古川さんが家を出た途端、妻は家の鍵を閉め、電話にも出なくなった。まだ幼く、完全に同居親の監護下に置かれている子どもと別居親がつながる手段はない。古川さんは、子どもに会えなくなった。
夫婦間の葛藤が強い場合、同居親が子どもと自分を同一視し、「自分が相手に会いたくないのだから、子どもも会いたくないはず」と思ったり、自分がいやな思いをさせられている相手に子どもが懐くことを嫌がったりすることはよくある。子どもに会えるも会えないも、同居親の一存で決まってしまう。古川さんは別居親になって初めて、この現実に直面した。
「気が狂いそうになり、精神科にもカウンセリングにも通いました。その後、調停を経て正式に面会交流が決まり、いまは定期的に子どもに会えています。でも、子どもと会えないと気づいたときの恐怖感からは、2年経ついまも抜け出せていません」
離婚の際、子どもの親権が争われることがある。日本では婚姻時は父母による「共同親権」だが、離婚後は、片方の親による「単独親権」だからだ。親権を得た親は、子どもを「自分のもの」だと勘違いしてしまうことがある。「ひとり親」という言葉が、それを助長している。
しかし、死別ではない限り、離婚をしても子どもにとって親は2人。もちろん、虐待やDVなどがある場合はまた別の議論が必要だが、原則、離婚後も子どもは両方の親から経済的・精神的支援を受けて育つ権利がある。同居親の「感情」でそれを奪った場合、親子の断絶は子どもの人生に長く尾をひくこともある。
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