菅政権の「組閣と政策」を読む上で外せない要点 非世襲・無派閥・官房長官出身の新首相
9月16日に菅義偉・前官房長官が衆参両院の首相指名選挙で首相に指名され、同日菅義偉内閣が発足した。安倍晋三・前首相の突然の退陣表明から後を継いだ菅義偉内閣の意義と閣僚人事、そのうえで菅首相が取り組むと明言している政策課題のポイントについて解説したい。
菅首相が誕生した3つの意義
菅義偉氏が首相に就任したことについては3つの意義がある。
1つめは1989年8月から1991年11月まで首相を務めた海部俊樹氏以来、自民党政権では久しぶりに世襲でない議員が首相に就任したということである。
世襲議員は出馬する時点で相当な支援者を得られており、政治資金を得るルートも確保できていることが多く、政治活動を行う上で恵まれている。このため首相を目指す上で有利な立場にある。菅氏は世襲議員ではなく、首相就任は画期的である。
2つめは自民党で無派閥の議員が初めて首相に就任したということである。
かつて自民党政権では派閥の領袖であることが自民党総裁、そして首相就任の条件であった。この条件は1995年9月に橋本龍太郎通産大臣が総裁に就任した頃から徐々に崩れていく。その後、2012年9月の総裁選に出馬した時、安倍晋三元首相は町村派の領袖ではなかった。ただ、これまで無派閥の政治家が首相に就任した例はなかった。
今回の総裁選では派閥の意向が報道されることが多かった。だが、菅氏の首相就任は今や無派閥でも首相に就任可能な時代になったことを示し、派閥の役割の低下を逆に示唆している。派閥に所属する政治家の数で見るとその重要性の減少ははっきりする。現在自民党で無派閥の議員は69名である。これは議員集団の規模としては最大派閥の細田派に次ぐ。
3つめはこの20年で菅氏は安倍晋三前首相、福田康夫元首相に続き、3人目の官房長官経験者の首相ということである。これは官房長官という役職が一層重要になっていることを示している。
官房長官の地位の重みが上昇したきっかけは2001年の省庁再編である。省庁再編の結果、内閣官房の機能が拡大した。それ以前は内閣官房の主たる事務は省庁間の政策を調整することであった。省庁再編以後、内閣官房の機能に内閣の重要政策の企画・立案が加わった。以後、内閣官房が数々の重要な政策立案の事務局を担うようになる。
本来、内閣官房のトップは内閣総理大臣である。しかしながら、実際には内閣官房長官が日々の業務を「統轄」(内閣法13条3項)すなわち管理する。内閣官房が重要な政策を担当すればするほど、内閣官房長官が内閣にとって大事な政策に関与する度合いを深め、閣内、さらには与党内における地位を上昇させることにつながる。
また官房長官は1日2回記者会見を行い、国民に露出する機会も多い。この結果、知名度も上がる。党首は与党の「顔」として選挙で重要な役割を期待される。知名度の高い政治家が党首に就くことは政党政治家にとっては望ましい。
こうして官房長官に就いた政治家が首相の地位に近づきやすくなったと考えられる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら