「6分の1公式」が中高生の将来の仕事を奪う悲劇 藤井聡太二冠の金言に学ぶAI時代の数学的教養
しかし、日本の数学教育はそうした理想とはほど遠い状況にある。4年に1度のTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)で発表される調査結果(中2の年代)などにもあるように、わが国の「数学嫌い」の割合は約6割と多い。
「好きこそものの上手なれ」ということわざを信じて、この問題にもっと前向きに取り組む必要があるだろう。
一方で、「AIが進化すると、人間の仕事の多くが奪われてしまうのではないか」という負のイメージが重くのしかかっている。
そもそも「暗記力」と「計算速度」に関して、人間は計算機に勝てない。だが、新しい何かを発想したり、既知の性質をまったく異なる世界に応用することは人間に任せられた仕事だ。
実際、子犬と猫を見ている幼児に「あれワンワン、あれニャンニャン」と教えると、すぐに子犬と猫を見分けられるようになる。しかし、AIにその違いを学ばせることは大変なことだ。要するに、人間はAIと上手に「共存」する関係を目指すのが筋である。
「ゆとり教育」を前にした1990年代後半、「数学は単なる計算技術だから、計算機が発達した世においては、数学は不必要になる」などと広範に言われ、それに対して各種媒体で反論した思い出がある。人間とAIの関係は冷静に見つめるべきであり、数学の学びもAIと「共存」する視点に立つことが望まれる。
ところが、現在の小学生から高校生までの数学の学びを見ていると、まるでAIと競う方向に走っているような学びが目立つ。「マークシート式の問題の答えを当てればよい」という意識が過剰になったような、理解無視の「やり方」暗記の学びが顕著なのである。
「暗記数学」がもたらす悲しい結果
このような学びを「暗記数学」と呼ぶことにして、いくつかの例を紹介しよう。もちろん、「やり方」の理解を伴う暗記はその定義に含まれない。
読者の皆さんは「く・も・わ」をご存じだろうか。「く(比べられる量)・も(もとにする量)・わ(割合)」のことで、マルの中の上段に「く」、下段左に「も」、下段右に「わ」を書いて、それらの関係式を暗記するものである。
そのような暗記から入る学びなので、それを忘れると次のような問題で間違えることになる。2012年の全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)に出題された問題である(小学6年生対象)。
赤いテープと白いテープの長さについて、「赤いテープの長さは120cmです」「赤いテープの長さは、白いテープの長さの0.6倍です」がわかっている前提で、以下の内容を図示してある4択の問題だ。
2:白いテープは120cmで、それは赤いテープの0.6倍に見える図。
3:赤いテープは120cmで、白いテープはその0.6倍に見える図。
4:赤いテープは120cmで、それは白いテープの0.6倍に見える図。
「3」を回答した生徒が50.9%もいる半面、正解の「4」を回答が34.3%しかいなかった。もとにする量と比べられる量の表現について、小学生があまり理解していないことを示す結果の1つだ。
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