「6分の1公式」が中高生の将来の仕事を奪う悲劇

藤井聡太二冠の金言に学ぶAI時代の数学的教養

およそさまざまな概念をよく理解し、試行錯誤を繰り返すことによって、人間は新しい何かを発想したり、既知の性質をまったく異なる世界に応用することで成功するのである。それゆえ「理解」と「考え抜く姿勢」は大切で、前述のような現状は早急に改善する必要があるだろう。

これは「数学嫌い」の問題もあわせて考えるべきだろう。そこで、筆者が出前授業でも用いている、興味・関心を高める話題を3つ紹介したい。

数学を楽しむ視点に気づくために

最初は、掛け算の応用だ。今から20年近く前に出版した算数絵本に載せた題材である。

5両編成の在来線の先頭がトンネルに入り始めてから最後尾がトンネルに入るまで、10秒かかったとする。在来線は1車両20mなので、10秒間で100m進む速さとなる。それは1分間に600m進む速さ、すなわち時速36kmで進行していることがわかる。

あるいは、在来線に乗っている客が「ガタン、ゴトン」という線路のつなぎ目で発する音を、1秒間に1回聞いているとしよう。このとき、在来線の線路の基本は1本25mなので、列車は1秒間に25m進む速さ、すなわち1分間に1500m進む速さとなって、時速90kmで走行していることがわかる。

次は、出前授業でつねに喜んでもらえる「誕生日当てクイズ」である。

「生まれた日の数を10倍して、その結果に生まれた月の数を足して、その結果を2倍して、最後にその結果に生まれた月の数を足すと、いくつになりますか」という質問をしたとする。これは、3×月+20×日を質問しているのであるが、月は1以上12以下の整数、日は1以上31以下の整数という条件を使うと、それらは決定される。

解説はいろいろな拙著に書いてきたが、例えば「401です」と答えた生徒がいたら、「あなたは藤井聡太二冠と同じ7月19日ですね」と瞬時に答えるのである。いわゆる「整数の方程式」というものに関心を広げてもらう狙いもある。

最後は、将棋の先手・後手に関係する話題である。

日本将棋連盟の1967~2007年度のプロ公式戦では、後手が勝ち越した年は一度もなく、全8万0061局の戦績では先手の勝率が5割2分6厘であった。ところが2008年度に行われた2340局では後手の勝率が5割3厘と、初めて後手が勝ち越したのである。

勝率p=0.474のゲームを2340回行って、5割以上勝つ確率を求めてみよう。高校数学の選択の内容で学ぶ「正規分布」の考え方を用いると、以下のことがわかる。

確率変数Xを「2340回中の勝つ回数」とすると、その確率分布は二項分布B(2340,0.474)になる。その分布を標準正規分布に正規化して考えると、Xが1170以上の確率は約0.6%であることがわかる。ちなみに、そのあとの年度は再び先手が勝ち越している。

AI時代を前に、曲がり角に来ている日本の将来に向けて、将棋という日本の誇る文化が斬新な“一手”を指しているように思われる。年内に出版する予定の拙著の中では、暗記数学の問題点や算数・数学に対する興味・関心を高める題材などを含む、AIと共存する数学の学び方について言及したいと考えている。

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