「国債は国民の資産だ」と叫ぶ人に教えたいこと 出口治明・権丈善一「日本の財政がこじれる訳」

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出口 個人も国も本質は一緒だ。いつか返さなければならない借金があれば、それだけでしんどい。僕は、国の多額の借金を否定するいちばんの論拠は、民主主義の正統性にあると思う。民主主義とは何かといえば、それは市民が税金を払い、自分たちの払った税金をどう使うかを決めることだ。

出口治明(でぐち・はるあき)/立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。2008年にライフネット生命を開業。2018年1月から現職。『生命保険入門 新版』、『人類5000年史 Ⅰ~Ⅲ』、『還暦からの底力』など著書多数(写真:梅谷秀司)

日本は財政赤字を続けたことで、一般会計歳出の約4の1が利払い費などの国債費になってしまった。これは、私たちが税金の使い方として決めたのではなく、過去の借金によって強制的に払わされている。財政赤字を放置すれば、将来世代はもっと重い形で同じことを余儀なくされる。

僕は、「悔いなし、貯金なし」の人なので、僕の子どもや孫は絶対に自分たちの税金の使い方を決める権利を僕に与えたくはないだろう。しかし国債発行論者は、子どもや孫たちの世代は素直で、彼らが使い方を決めるべき税金の権利を自分たちに100%委任してくれているという自信がきっとあるのだろう。

「増税した分は全部給付に回せ」のワナ

――一口に国民といっても、所得・保有資産の階層や、現在・将来など世代で区切って考えると、誰のお金が誰のところへ流れているのかが、理解しやすくなります。

権丈 「再分配政策の政治経済学」という言葉は、私が作ったものだが、そのような所得の流れから政治経済を考えようという学問のことだ。

私は、日本の特徴を「給付先行型福祉国家」と言ってきた。欧米の制度の歴史のように、税負担と一緒に社会保障給付も増やしていけば、国家は高所得者から低・中所得者へとお金を流すことができる。ところが、日本は増税などの負担増を後回しにして、給付拡充を先にやってしまった。

そのため、先行した給付を賄うために後回しにした負担増を実施しようとする段になると、「負担増と同額の給付の増加を」という財政ポピュリズムのような話が出てきたりして、結果、国民の負担増への抵抗が海外より大きくなる状況を招いた。財源も用意せずに給付を増やして、将来の中・低所得層のリスクを高めるようなことは考え直したほうがいい。

国は財政が破綻しないように努力するだろうから富裕層の資産は守られたとしても、中・低所得層はたまったものではない。社会保障のカットで医療・介護は維持できなくなるし、医療・介護で働く人たちもきつい状況になる。努力してもインフレや金利の上昇を抑えきれず、万が一、国債費の支出と借り換えが難しくなった場合には、みんなそろって一層悲惨なことになる。

いま公的年金改革で進めている厚生年金の適用拡大も、現在・将来の世代で分けて考えると理解しやすい。非正規雇用の人たちを厚生年金の適用から外している現状を続けると、これらの人たちは高齢期に生活保護受給者となってしまう可能性がある。そのとき、将来の生活保護費は将来世代の税から払われる。

つまり、現在の中小企業は付加価値生産性が低いとの理由で非正規雇用を厚生年金の適用から外す特典を受け、保険料を払わずに済んでいるが、それは将来世代の税から生産性の低い企業、なかにはゾンビ企業もあるだろうし、そうした彼らを温存するために将来世代の税で補助金を与えているようなものだ。正当な理由などどこにもない。

出口 まさに権丈さんの言われるとおり。そうした構造が可視化されていないから、市民の政策議論が深まらない。それを上手に見せるのがメディアの仕事だ。

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