権丈 経済産業省や内閣府などは、「マイナンバーは行政の業務効率や生産性を高めるために推進する」と繰り返して、それにしか興味がないのだろうが、はっきりと「社会権・生存権を守る社会保障のために必要だ」と表に出さないとダメだろう。必要な人に必要な所得をしっかり行き渡るような支援や制度を作るためには、マイナンバーを「社会保障ナンバー」に昇華させていかなければならない。格差を抑止する有効な政策技術になる。
出口 「社会保障のため」というと、またそこで引っかかる人がいるかもしれないので、僕はもっと簡単に「小さな政府」にしようと言ったほうがいいと思う。「大きな政府」にしたらややこしいだけやでと。シンプルにお金を集めてシンプルに配る「小さな政府」が、人間社会本来の基本であって、社会のオペレーションコストをミニマムにしようと主張したい。
コロナ対策の持続化給付金でも、巨額な手続き業務の委託費が問題になった。市民はそんなことをしているのかと怒った。政府と市民の間に介在する人が増えれば増えるほど、オペレーションコストが増えて本当に必要な人にお金が届かない。政府が困っている人にお金を配る、そのためにいちばんいい方法は中間に入る人を極力少なくすること。それは結局、マイナンバーを活用することだ。
権丈 英国では、労働党政権のときに行政コストの削減を訴えるところからスタートして、その後、社会保障の話に入ってくる。日本では同時並行でもいいと思う。
欧州では情報捕捉で現金給付の統合が進む
――マイナンバーのようなデジタル化によって、欧米ではどんな社会保障システムの変化が生じているのですか。
権丈 英国などで行われているが、生活保護や失業給付、児童手当など現金給付の効率をそうとう程度高めることができる。バラバラになっている現金給付の制度は行政費用がそれだけ増える。制度を1本化して、そこに家族構成や所得などの情報を入れると、「この人はいくらの受給の権利がある」とわかる(「日本の社会保障、どこが世界的潮流と違うのか」を参照)。
また、ミーンズテスト(申請者が要件を満たすか判断するため、行政側が行う資産や所得の調査)などもあまりがんじがらめにやらない。制度があまりに複雑だと、本当は受給の権利を持っている人たちに給付が届かず、制度の捕捉率が下がるが、デジタル化時代になって生活保護制度などが創設されたころには不可能だったことができるようになった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら