日本の社会保障、どこが世界的潮流と違うのか カンヌ受賞作に見るデジタル化と所得捕捉
7月17日に閣議決定された「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2020)には、次のように書いてあった。
「公金振込口座へのマイナンバー付番」というのは、たぶん、今回の10万円のような現金を振り込むための口座を、国民1人1人が一つだけ持っているマイナンバーに紐付けるという話なのだと思う。当たり前の話であるが、仮にそうした「公金振込口座」というのが整備されたとしても、「公平な全世代型社会保障を実現」することはできない。今日はそういう話をしておこうかと思う。
映画ダニエル・ブレイクに思うもの
オンライン生活に入っていった3月から4月ごろ、家の中でついつい、「ダニエル状態」という言葉を使ってしまっていた――社会派映画の巨匠ケン・ローチ監督に申し訳なく思っている。
ダニエルとは、映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』のダニエルのことで、彼は59歳で心臓発作を起こし、医師から働くことを止められていた。イギリスでは、福祉事務所で就労が可能なのかどうかについてチェックを受けることになっており、ダニエルは、政府の委託業者によるマニュアルどおりの問診に嫌気がさした返事をしてしまったためか、就労可能の判定を出されてしまう。
そうなると、彼は、ユニバーサル・クレジットという、日本でいう生活保護や失業給付や住宅手当や児童手当などの現金給付の制度が統合された普遍的(ユニバーサル)な制度の対象となる。
この制度は、就労を促進するための仕組みが組み込まれていると同時に、給付を受けるためには、求職活動と就労が義務づけられている。
就労可能の判定に納得がいかないダニエルは、不服申し立てに職業安定所へ出かけるも、手続きのすべてがデジタル化されていて、それ以外の方法は受け付けない状態になっている。彼は、「俺は大工だ。家なら建てられる。だが、パソコンはできない」と訴えるも「デジタル化ですから」との機械的な返事しか戻ってこない。
ダニエルに、パソコンの使い方を説明しようとする職員がいるにはいたが、彼女は上司から、規律を乱すと叱責を受ける始末。こうして、ダニエルは、自尊心をひどく傷つけられながらイギリスのセーフティネットから漏れ落ちていく。
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