日本の社会保障、どこが世界的潮流と違うのか カンヌ受賞作に見るデジタル化と所得捕捉

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どの国でもそうであるが、貧困救済制度は複雑になり過ぎて、支援が必要なはずの生活困窮者には制度が届きづらくなっていたり、制度の谷間が生まれていたりするだけでなく、複雑ゆえに行政費用も高まっている。

そこでイギリスでは、貧困救済のための諸給付をユニバーサル・クレジットに統合して簡素にし、それまでの所得の補助、家賃・地方税に対する補助、障がい者・介護者への補助、子どもを養育する親への補助、低賃金労働者への補助が徐々に廃止されていく。

さらに、ユニバーサル・クレジットは、ブレア政権で掲げられ、ワーキング・タックス・クレジット(勤労者向けの給付付き税額控除)の導入で具現化されたwelfare to workfare(福祉から就労福祉へ:workfareはworkとwelfareの合成語)を継承している。

就労しても給付が減らない仕組み

次にユニバーサル・クレジットの概念図を、旧来型の公的扶助と比較しながら描いておく。

公的扶助は、足りない部分のみを補うという「補足性の原理」に基づいて制度設計されてきたために、就労で得られた所得の分だけ給付額が減らされるので(限界税率100%)、可処分所得は一定である。ゆえに、貧困から抜け出すための就労のインセンティブが阻害されるという貧困のワナ(poverty trap)が生じていた。

しかし、税額控除(credit)の考えを応用して、税額控除に相当する定額を所得に関わることなく給付することにしたユニバーサル・クレジットは、就労すると可処分所得が増える仕組みとなる。

映画のはじまりは、ダニエルが就労の可否を問われる「審査」のシーンからである。ケン・ローチ監督は、映画で行政のデジタル化による非人間的対応がセーフティネットから転落して貧困に沈む人々を生んでいる側面を批判してはいたが、ユニバーサル・クレジットそのものへの批判は行われていなかった。

とはいえ、雇用情勢が悪い中では、就労インセンティブが制度上保障されているからといっても、求職活動、就業の義務を果たしてもらうことは難しい側面は、映画の中で描かれていた。そして、就労できないという審査を主治医が行っているのに、制度運営上の最終判断を委託業者に任せていることにも批判の目は向けられていた。

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