――財政問題を考える際の基本構造は理解できました。そのうえで、コロナ対策における財政出動についてはどのように考えますか。
権丈 今回の新型コロナ対策でも、なるべく公的債務が増えないようにやりたい。そのためには、本当に支援が必要な人に対して必要な額の給付を行う一方、コロナ禍による経済的打撃を受けていない人たちにはそれを支えてもらうことが大切だ。そのような所得の再分配の必要性が一段と強まった時代だと言える。
さらにいえば、今回のパンデミック、繰り返される自然災害、金融ショックなどで、これからも何が起こるかわからないという意識が広まってきていると思うが、そうした変化は、不確実性に対する保険としての「社会・政府」への要請を高めてきているはずだ。
マイナンバーが宝の持ち腐れに
――ただ、現状の政策はうまく行っているとは言えません。
権丈 私は「複利計算の怖さ」と同様に「広さの怖さ」もあると言っているが、財政政策では給付対象が広いと給付総額が一気に膨らんでしまう。たとえば、当初政府案だった「所得急減世帯に30万円給付」では総額約4兆円を想定していたが、一律国民1人10万円にした結果、総額は12.6兆円に膨らんでしまった。国防費は約5.3兆円なのに、である。
これからも不測の事態は起こる。世の中というのは初めから不確実なものである。こういう「広さの怖さ」を知る事態を繰り返し起こさないためには、政府は誰が困っているのかをある程度わかっていないといけない。
ところが、日本政府はそれがわからない。対談の前編で出口さんは、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は10周遅れと言われたが、政府の所得捕捉におけるデジタル化がまさにそうだ。海外ではどんどん進んだのに、日本ではプライバシー問題などを理由に遅々として進まず、世界でも特異な国になってしまった。
出口 政府はマイナンバーを整備したのだから、技術的に所得は捕捉できる。ただ、リベラル派を自認する人たちを筆頭に、マイナンバーというと何も考えずにプライバシー問題だと騒ぎ立てる知性の低さがこの国の最大の宿痾だ。
マイナンバーにプライバシー問題のリスクがあるなら、マイナンバーを管理する第三者機関を作ればいいだけの話だ。マイナンバーで国民の所得を捕捉するが、それは政府が管理しているのではないという仕組みを作れば、この問題は消える。マイナンバーで所得を捕捉して、そこに銀行口座をひも付けることは技術的にはなんら問題ない。そうしたうえで、所得の低い人に集中して給付すればいい。
ところが、マイナンバーという技術的なインフラがあるにもかかわらず、日本はプライバシー侵害と騒いで無理やりカギをかけている状態だ。その結果、低所得者だけに給付するにはものすごく時間がかかるため、次善の策として国民1人10万円となった。まったく宝の持ち腐れだ。
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