「炭酸水」が品薄に?製油所閉鎖の意外な影響 猛暑と供給量不足で炭酸ガスの需給が逼迫

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2020年は新型コロナウイルスの影響で溶接向けや飲食店向け需要が減少し、需給逼迫の度合いは緩和されるかに見えた。ただ、8月に入って猛暑日が続き、「ドライアイスなどの需要は例年通り増加している」(エア・ウォーター広報)。食品や医薬品などの低温輸送のほか、宅配便のクール便に使われる量も増えており、需給が逼迫していることに変わりない。

もちろん、各メーカーは生産能力増強を急いでいる。昭和電工ガスプロダクツは大分市に工場を新設し、2019年4月に製品出荷を始めた。日本液炭は約60億円を投じ、2021年11月に新工場を山口県宇部市に完成させる予定だ。岩谷産業も2021年7月をメドに、千葉工場(千葉県市原市)の製造能力を倍増。年間で最大8.6万トンの液化炭酸ガスを製造できるようにする。

老朽化した製油所のリスクも

近年は国内で不足する分、韓国からドライアイスを輸入してしのぐケースも増えている。ただ、輸入品は輸送費などがかさみ、エア・ウォーターは2019年4月の納入分から従来に比べて1割程度の値上げを行った。岩谷産業の服部氏は「2019年から飲料メーカーなどに対して(液化炭酸ガスの)価格改定をお願いしている。自社の製造能力を増強することで韓国からのドライアイス輸入に頼らなくても、今後は安定供給できる」と強調する。

国内の製油所は老朽化が著しい(記者撮影)

炭酸ガス原料の源となる製油所は、今後も増えることはなさそうだ。エネオスHDの杉森務会長CEOは「製油所の統廃合は引き続き検討する」と話す。国内の石油製品需要は1999年度の2億4600万キロリットルをピークに減少の一途をたどり、2023年度は1999年度比で約4割減の1億5800万キロリットルになると予想されている。

製鉄所も炭酸ガス原料の供給源として有力視されているが、製鉄所から供給されるCO2は純度が低く、生産コスト上昇につながりやすいという。

既存の製油所は老朽化しており、プラントを停止して行う定期修繕の長期化や故障による停止のリスクも消えない。炭酸ガスメーカーの大阪ガスリキッドは「(2019年は製油所の定期修繕などの影響が出て)原料調達が厳しかった」と明かす。最近も、定期修理中だったエネオスの大分製油所では5月26日に火災が発生。原因究明中だが復旧の具体的な見通しは立っていない。

今後、炭酸ガスの供給が滞れば、輸入や遠方の生産地から調達する必要が出てくる。そうなれば、低温輸送コストが上がり、食品価格に跳ね返ることも考えられる。スーパーや洋菓子店などで行っているドライアイスの無料配布も、もしかしたら姿を消すかもしれない。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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