半沢直樹「続編も快進撃」の裏に潜む1つの不安 「倍返し」は痛快変わらずだが時代とのズレも

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「半沢直樹」を7年のブランク知らずにした最大戦略は、名セリフ。

「倍返しだ」である。

前作では、熾烈な出世争いのなかで何かと理不尽な目に遭う半沢直樹は「やられたらやり返す。倍返しだ」とリベンジに燃える。やり返す。しかも倍にして。これが視聴者の溜飲を下げた。

半沢の不屈の行動は、日頃、上司やクライアントからの理不尽な要求に涙をのんでいるサラリーマン(昭和の言葉で言ったら平社員とか中間管理職)の日曜の夜のストレス解消になり、月曜に肩で風を切って会社に向かわせる原動力になった。

一度聞いたら忘れられないセリフ「倍返し」。7年経っても鮮やかに記憶に残っていた。新作でも「倍返し」のセリフは健在。子会社・東京セントラル証券に出向になった半沢直樹はこの言葉を胸に、親会社・東京中央銀行に倍返ししていく。

原作『ロスジェネの逆襲』を基につくられたドラマは、半沢の部下もビジネスの相手もロスジェネ。年月の経過によって「おじさん」になったことを自覚しながら半沢は、彼らと手を結び、人生や仕事について大事なことを教えながら、ともに親会社の悪事を暴いていく。

「倍返し」を取り巻く状況が7年前とは違っている

剣道をやっている半沢は、人生の太刀筋もまっすぐで痛快。だがしかし、少し気になることもあった。「倍返し」という概念および行動が7年前に比べると暴力的ではないかということである。7年前でも9.11アメリカ同時多発テロ以降、復讐の連鎖を止めようという祈りの声が大きくなっていたが、「やられたらやり返す、倍返しだ」はまだエンタメとして楽しめた。前作の最終回のクライマックスは、宿敵・大和田に半沢が土下座を強要する場面だが、いまだとこれはある種のハラスメントにも思える。令和の今、何かとハラスメントが問われるなかで、続編も「土下座」&「倍返し」で押していった。ハラスメント満載なのである。

半沢に対する大和田、銀行の眼の上のたんこぶのような金融庁(続編ではやたら長い名前の部署に異動している)の黒崎(片岡愛之助)、新たに半沢を追い詰める存在・伊佐山(市川猿之助)と歌舞伎俳優による(香川も市川中車のなまえで歌舞伎をやっている)大ぶりな演技合戦が繰り広げられ、小劇場で鍛えた堺雅人が彼らを超える勢いの芝居で対峙していくという、チャンバラや銃撃戦や殴り合いのように暴力は振るわないながら、言葉と顔力による精神的な殴り合いで見せるショーのようにも見える。

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