イギリスは2015年に『国家安全保障戦略』(NSS/SDSR)を公表して以来、日本を「アジアにおける最も緊密な安全保障上のパートナー」と位置づけてきた。一方で、2015年3月11日に中国が設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を欧州諸国で最初に表明した事に示されるように、対中認識のギャップが日英間の潜在的な懸念材料となっていた。日本にとって、経済的利益を優先して中国に接近したイギリスのイメージがまだ鮮明に残っている。
ポスト・コロナ時代においては、台頭する中国にどのように向き合うかを共通課題とした日英対話の機会を拡大することで、日英両国間の認識の共有を大きくしていく必要がある。この対話は、準同盟関係に向けて日英安全保障協力をさらに深化させ、ルールに基づく秩序の擁護者として、アジアとヨーロッパというそれぞれの地域、インド太平洋、さらにはグローバルなレベルでの連携を拡大していく基盤を与えるであろう。
近年変化の兆候が見えていたイギリスの対中認識
上述したコロナに加えて、ここ数年、イギリスが掲げる外交理念の根幹を損なうような中国の行動に対してイギリスの対中不信感は増幅し続けていた。とりわけ英国防省は、南シナ海における中国の海洋行動に対する警戒感を強め、2019年における中国政府による香港への統制強化、さらには新疆ウイグル自治区における人権侵害の問題も、その流れに拍車をかけた。
2020年3月に新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、中国がこれに乗じて地政学的および地経学的な影響力を拡大しようと行動を活発化させると、イギリス政府内では対中政策を転換していく必要が認識されるようになった。具体的には、次のような二つの変化として現れた。
第1に、政治レベルでの対中不信感の増大が見られる。3月末ごろから、保守党所属議員を中心に、中国がウイルスに関する情報の隠蔽、透明性の欠如が世界的な感染拡大につながったという非難が見られるようになり、中国の責任を求める声が相次いだ。
そして4月に入ると、それまでの対中政策を見直すことを目的として、保守党内部に「中国研究グループ(China Research Group)」が設立された。これはブレグジットにおける強硬離脱派で組織される保守党議員グループの「欧州研究グループ(European Research Group)」と同様のイデオロギー的傾向が見られ、保守党政権の今後の政策立案にも影響を及ぼすと見られる。
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