香港でなお続く騒乱が訴えるアジアに迫る危機

日本にはいったいどんな行動が求められるか

7月1日、香港はイギリスから中国に返還されて23周年を迎えた。写真は香港で民主化を訴えるデモに参加する人々(写真:ロイター/Tyrone Siu)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

香港が世界の中で果たす特別な役割

香港は、中国大陸南端の喫水深い天然港を擁し、ロンドン、ニューヨーク、東京に並ぶ人口700万の世界的大商業都市である。低税率で自由な貿易と金融資本経済を持つ世界第3位の国際金融センターで、香港ドルは世界第8位の取引高を誇る。ヘリテージ財団とウォールストリート・ジャーナル紙は毎年、経済自由度指数を発表しているが、24年間連続世界一に君臨する。その香港が今、国際戦略政治の発火点になっている。

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香港には、世界の中で特別の役割がある。中国の発展途上の金融制度を世界の資本市場とつないでいるのだ。中国本土の企業や銀行が米ドルで取引できる。昨年、香港の銀行間決済額は約10兆ドルに上った。その機能は、中国にとっても世界市場にとっても有用だ。金融拠点として上海や深圳も大規模だが、公正な裁判所、独立した中央銀行、自由な資本移動、中国企業と西側企業が共存するという利便はない。 

西側諸国は、香港が中国の成長を助ければ、次第に中国政府はその経済制度を世界標準にし、政治制度においても世界標準への変革を進めるだろうと期待してきた。一方、北京政府のほうは、50年間に及ぶイギリス植民地時代の制度を残す恨みはあるが、先進諸国の金融、運輸、流通等のノウハウを習得できるのは中国全土の発展の貴重な窓だと知っており、政治改革を牛歩的に蛇行させる間に経済の「うま味」を味わい尽くそうとの心算が見え隠れしてきた。

香港が今、直面している混迷は昨年3月に始まった。中国政府への犯罪人引き渡しを合法化する条例改正に香港市民は反対の声を上げ、普通選挙などの民主化要求を掲げて市民200万人が立ち上がった。その波は、1997年の一国二制度発足以来最大規模となった。

4人に1人の香港市民が街に出て、重大な危険に警告を発した。その警告は広くアジアの未来についての懸念をも訴えていた。しかし、中国の巨大市場が誘う経済利益はあらがいがたい魅惑の芳香を放ち、香港経済界や諸外国からの批判の矛先は鋭さを欠いた。

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