外交は原則と利益の狭間で揺れる。日本の外交当局が口を閉ざしているわけではない。その外交姿勢が曖昧だとも思わない。長期的国益の所在は明らかだ。しかしその主張と行動は国際場裏にあまり明確には表現されていない。決意は言語でも伝えられるが、具体的施策の実行があれば、より雄弁に表現できる。
日本に実行が求められる経済制裁の要諦は以下3点に集約される。課す側にコストではなく機会を提供する手段であるべきだ。
第1に、制裁の標的は香港ではなく、香港経済人の救出は日本経済にも機会を提供する。
第2に、通信網、先端技術、戦略物資などの対中依存過多は本来抜本的修正が必要であり、それを進める措置は日本経済安定の機会となる。
第3に、高度技術の遺漏防止を目指し対外対内投資のスクリーニングを強化する措置は、日本の安全保障を強化する。
コロナ禍で国際金融取引の慣習は変容へ
紙面の制約から上記第1のみ敷衍(ふえん)を試みる。コロナ危機の後、デジタル経済が加速する中、既存の国際金融取引の慣習は変容し、国境を越えるデジタル決済システムが世界に拡大するであろう。金融技術の急成長とともに、デジタル通貨が世界市場を席巻する可能性もある。
わが国は香港危機でアジアの金融市場が縮小するのを防止し、その発展を支える責務がある。例えば、オフショアの金融特区を日本の何処かに設置し、国際的制度を許容したうえで、最先端のノウハウを有する香港をはじめとするアジアの金融専門家に開放すべきではないか。無論、随伴する広東料理店も歓迎されよう。
コロナ危機の後、アジアは愈々(いよいよ)成長し、世界の政治経済の中核的地位を不動のものとするだろう。1000平方キロメートルの小さな香港の市民が声をからして発する警告は、アジア全域の将来に迫る危機を訴える。日本は小国ではなく、アジアの成長を牽引してきた世界第3位の経済大国だ。とりわけ、アジアの将来に責任を持つ国の1つだ。世界中がその一挙手一投足に固唾を飲んで注目している。
(宮川 眞喜雄/アジア・パシフィック・イニシアティブ・フォーラム<APIF>プレジデント兼APIシニアフェロー、内閣官房国家安全保障局 国家安全保障参与)
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