中国では、権威主義的体制の下で人々の自由や人権の保障は二の次で、個々人の情報は共産主義支配体制永続化に利用され、体制批判者は、自分の身柄がいつ何の理由で当局に拘束されるか予想できない。人々は非情な危険の中で生きている。
危険は、国内の知識人や文化人に襲いかかるだけでなく、周辺諸国にも及ぶ。直近の例は、コロナウイルス発生源に独立調査を求めた豪州政府に向けられた。豪州から食肉の輸入を止める、その大麦に高関税を課すと言い、中国国民には豪州渡航をやめろと「指導」する。
北京政府の問題は、経済規模の自信から出る横柄さにある。数年前、ASEAN諸国と中国の外相会議で南シナ海問題が議論された際、大国に小諸国が文句をつけるべきでないと言い放ち、ASEAN諸国外相らが激しく抗議した1件は、なお記憶に新しい。
アメリカのトランプ政権は、中国の利己的貿易慣行を批判し、対中関税を引き上げた。これに対し中国は、競争に負けて相手を非難するのは筋違いであり、トランプは自由貿易体制を破壊する悪の権化だと切り捨てる。
問題の本質は、中国が自国企業にだけ有利で特異な経済制度を固持しているところにある。多くの国で広く認められている企業株式の買収は、世界第2位のこの経済大国では外国企業にだけは認められていない。さらに中国当局は、自国へ投資する外国企業に技術の開示を義務づけ、知財を奪う。一方で自国の戦略企業には補助金を流し込む。
巨大市場への参入手形が交渉材料に
1人の競技者が、巨大市場への参入手形を交渉材料に、自国有利の特別ルールを押しつけて、ほかの競技者との競争に勝ち続けている。米中貿易戦争は、その不公平が解消されるまで終わらない。6年がかりで中国と投資協定を交渉するEUの交渉団も、最近その不公平を指弾し始めた。
今回のコロナ危機で世界は、中国政府の言動に虚偽の臭いを感じ、その行動に不誠実を見た。武漢での発症情報を迅速・正確に公表せず、感染源と疑問視される研究所への調査を拒否し、世界保健機構を政治利用して台湾を排除し、ウイルス拡散はアメリカ軍の仕業ではないかとまで公言し責任転嫁を図った。
昨年の市民運動は条例案撤回で事なきをえた。しかしコロナウイルス蔓延で世界中がその対応に追われている間隙を狙って、中国政府は機敏に巻き返しに出た。4月18日、民主化団体が集会を自粛していた矢先、香港政府は突如現職立法会議員や「民主の父」と呼ばれたマーティン・リー元議員ら15人の民主化幹部を一斉捕縛した。言論界の重鎮ジミー・ライ氏も連れ去られた。
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