さらに、日英両国間では依然として、認識に溝がある。日本がこれまで進めてきた「自由で開かれたインド太平洋」構想(FOIP)はアメリカ、オーストラリア、インド、さらにはASEAN諸国などからも支持を得てきたが、依然としてイギリス政府はこのような地域的枠組みへの態度を決めかねている。イギリスにとってはオーストラリア、シンガポール、インドなどを含めたコモンウェルスという枠組みの重要性は不変でもある。両者をどのように整合させるか、課題は多く残っている。
今こそ中国問題をめぐる日英対話の拡大を
そうしたイギリスの不安定さにかんがみれば、日英で2国間の対中政策をめぐる政策対話の機会を拡大することが日英二国間関係にとっても重要なステップとなるであろう。これまで対中政策で必ずしも完全に認識が一致してきたわけではなかった日英両国政府の間で、中国との関わり方について意見交換をする機会が増えれば、両国にとってどの分野で共同戦線を張ることができるかも、おのずと明らかになるであろう。また、目指すべき協力分野が特定されることで、より実効的な協力が追及されていくのではないか。
トランプ政権下のアメリカの政治、経済、外交、社会などの不確実性と予測不可能性が高まりをかんがみれば、アメリカにとってアジアとヨーロッパにおける最も重要な同盟国である日英両国が相互に協力を模索し、国際社会で指導力を発揮する必要性は一層高まっている。2017年1月にトランプ政権が誕生して以来、アメリカは「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」の政策を掲げ、多国間協力の枠組みからは距離を置くようになり、その傾向はさらに加速している。中国がその間隙を埋めようとする中、日英両国には具体的な行動が求められている。
2020年においても、アメリカは、これまでG7を通じた国際的な結束の実現に失敗し、さらにWHO離脱の意思表明や、駐独米軍削減の突然の決定など、国際社会において実効的な指導力を示せておらず、むしろさまざまな反発を招いている。イギリスと日本は、価値や課題を共有する重要なパートナーであり、またリベラルな国際秩序を守るための重要な立場にあることは疑いがない。
中国問題に向き合うという共通課題が見えたことで、これに基づいて両国の協力を再定義して新たな次元に導き、国際社会に具体的な行動を示していくことが、両国、国際社会に追うべき責任なのではないか。
(越野結花/国際問題戦略研究所(IISS)研究員、アジア・パシフィック・イニシアティブ松本・佐俣フェロー)
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