日本の音楽家やオーケストラは、どのように対応していくべきなのだろうか。山田氏は「自由に活動できたこれまでが、実は希有なことだった」と考えているようだ。
「“⾳楽で⾷べていく”ということは、考えてみれば⾮常に⽭盾しているのかもしれない。ある意味錬⾦術のようなものです。現代においては、資本主義のシステムの上で、経済的に豊かなバックグラウンドがあって初めて、⾳楽家は成り⽴っていくことができる。
では、お⾦がない今、どうなるのか? 危機に直⾯し、寄付を募っている音楽団体もたくさんあるのですが、そこが短絡的に⾒えないように、積極的にその哲学を示していく必要があるのではないかと思っています」(山田氏)
「音楽はなぜ必要なのか」をアピールする必要性
今、聴衆の心が離れてしまっていることは、パンデミックのせいだけではない、はらんできた問題が露呈したにすぎないというのだ。このことを、同氏は日本に昔からある「有難い」という感覚と結び付けて説明する。当たり前の日常を「有難い」として感謝し、謙虚になる必要がある、ということだ。
「今一度、音楽は”なぜ”必要なのかという点について、⾳楽に携わっている⼈自身がアピールしていくことが重要だと考えます。そうでないと、今のコロナの状況を乗り切ることができたとしても、その後が大変になってきてしまうでしょう」(山田氏)
自身、新しい時代を導くための取り組みを次々に始めている。その1つが、冒頭にも紹介した「Longing from afar」だ。リモートでの⾳楽を成⽴させるために、もともとクラシック⾳楽にあるさまざまなルールを取り払った。
例えば、リモート演奏では、それぞれの参加者がさまざまな環境からインターネットを通じて参加する。ハウリングや道路⼯事の⾳など雑⾳が⼊ることもある。静寂の中、音楽にだけ耳を澄ます、従来の楽しみ方とは違うのだ。
また西洋音楽では、音を出すタイミングが奏者同士でそろっていなくてはならないが、「Longing from afar」では、⾳がみんなでそろっていなくてもよく、従ってアンサンブル(演奏において奏者同士の呼吸を合わせること)をする必要もなくなる。
ただ、アンサンブルの役割は、音を出すタイミングをそろえることだけではない。音に込める情感を指揮者や奏者の間で分かち合い、共有する喜びを感じる。そして、それを聴衆にも伝えていくのがアンサンブルだ。つまりリモートでの演奏は、音楽のすばらしさのうち、多くの部分をあらかじめ排除していることになる。
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