日本のハンコ文化がどうしようもなくダメな訳 行政のデジタル化を待っていては後れを取る

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紙とハンコの廃止をどう実現させていくかだが、とりあえず総務省が進めている技術には次のようなものがある。行政はむろんのこと民間企業が進める社内の電子化、デジタル化を円滑にするものとして期待されている。

●タイムスタンプ……電子文書に打刻する技術。ある電子データがその時刻以降、改ざんされていないことを証明する電子認証技術だ。特許権などの訴訟に対して有効であると同時に、社内の工程確認の際の認定制度となる。総務省は2021年度にもタイムスタンプの事業者を認定開始する予定だ。

●eシール……請求書や領収書などに付与する「電子的な社印」と考えればいい。2022年度には導入する予定だったが、タイムスタンプ同様に、大幅に前倒しする予定になっている。海外ではすでにEU(欧州連合)が、認証サービス提供企業を180社程度(2019年10月)認定して動き始めている。

いずれにしても、日本の現状は、行政がほとんどデジタル化されていないために、印鑑が押してある紙の証明書であふれている。なぜペーパーレスが進まないのか。日本総研の「オピニオン リモートワークを阻害する紙・印鑑文化からの脱却(2020年5月15日)」によると、「紙・印鑑文化の脱却」を実現するためには、①社内意識・企業文化改革、②ペーパーレス化を前提とした業務プロセス設計、③ペーパーレス化に対応したルール整備、④システム整備の4つが必要としている。

企業にとっては「やるしかない」

お金も時間もかかりそうだが、日本政府や企業にとっては「やるしかない」のかもしれない。しかし、政府が動けば変化するだろうと思っているとしたら、それは間違いだ。

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20年かけてできなかった行政のデジタル化を待っていては、日本企業はますます世界の趨勢に遅れてしまう。そもそも、電子署名の動きは世界的にも見ても始まったばかりだ。アメリカの調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、電子署名の世界市場は、2023年までに55億ドル(約5900億円)だが、電子署名世界最大手のドキュサインは潜在な市場は250億ドル(約2兆7000億円)あると見ている。

その点、日本市場は2022年度に117億円(ITR調べ)しかない。アメリカでさえサインを伴う業務のうち電子署名の利用は10%程度と言われる。

いずれにしても、「紙とハンコ」をどうやって廃止させていくのか。そのためには、行政の「膨大な手続きを伴う文書主義の廃止」をどう実現させるかにかかっているのかもしれない。縦割り行政を廃止し、圧倒的に不足しているIT人材をどう確保していくかにかかっている。

かつての民主党政権が縦割り行政にメスを入れようとしてすさまじい反撃を受けたことを考えると、その実現はかなり難しそうだ。

ただ、幸いなことに安倍政権は省庁のトップの人事権を内閣府が握ることに成功している。思い切って経済産業省のトップを環境庁のトップに、文科省のトップを財務省に据えるような奇想天外、大胆な人事があってもいいかもしれない。選ばれた人材が本当に優秀であれば、いい仕事をしてくれそうだが、少なくとも内閣や首相官邸の言うことは聞いてくれそうだ。

民間企業は、行政の変革を待っている余裕はない。従来どおりの価値観と文化を守っていたのではコロナ後はないかもしれない。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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