日本のハンコ文化がどうしようもなくダメな訳 行政のデジタル化を待っていては後れを取る

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そのうえで、「賃貸契約書」を読み合わせたうえで、それぞれに署名捺印。最近は一部を電子署名などに切り替えつつある業者も現れているが、いくつか問題点があることは事実だ。

ちなみに、新車に乗り換えるためのクルマの購入に際しても、すべてがつねに必要ではないが、住民票、免許証、実印および印鑑証明書、車庫証明書、任意保険の切り替え手続き、下取りがある場合には下取り車の車検証、自賠責保険証、リサイクル券の預託証明書そして自動車税の納税証明書などが必要になる。

はっきりしていることは、必要書類が多すぎることだ。現在の世界の先進国の趨勢は、紙の流れをたった1枚のIDカードで処理しようという動きだ。

20年かけても実現できなかった紙とハンコの廃止?

さて、そんな状況の中で政府の経済財政諮問会議は、7月8日に今後の経済財政運営の基本方針、いわゆる「骨太の方針」の原案をまとめた。その中心的なものが行政のデジタル化であり、対面、紙、ハンコを廃止する方向性を打ち出した。これは、安倍首相が4月27日の経済財政諮問会議でデジタル化に向けた法制度や慣習の見直しを関係閣僚に指示したことを受けたものだ。

縦割り行政の中で本当に実現できるのかどうかだが、骨太の方針に基づいて1年で行政手続きをデジタル化すると表明。しかし、その現実には数多くの障害が待っているようだ。

というのも、政府はかつて2001年に決めた「e-Japan戦略」の中で、2003年度までには電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現させ、5年以内に世界最先端のIT国家となる、という大きな目標を掲げたことがある。

結果的には、行政のIT化を実現させることはできず、国際競争にさらされることもなく、日本企業は官庁の需要に時代遅れの技術で作った製品を売り続けてきた。20年前から欧米やアジアの企業にも行政の入札に自由に参加できる門戸を開いておけば、日本企業がデジタル化でここまで遅れることはなかったはずだ。

さらに、安倍政権は2013年に行政のシステムを統合するために「内閣情報通信政策監(政府CIO)」を設置した。いわゆる「デジタルガバメント政策」と呼ばれるものだが、やはり特定の企業だけで複雑な競争入札を行い、政官業のもたれ合いを続けてきた。

その背景には、いまだに縦割り行政にこだわる「霞が関病」がある。欧米各国政府のように、省庁間をまたいで、統一したシステムや仕組みをつくろうという気概もなければ、いまやそのノウハウもない。政府自民党からの圧力次第で動くだけに陥っている。

今回の骨太の方針でも、どんなに威勢よく1年以内にデジタル化を推進するといっても、結果は見えている。1年でデジタル化してもその内容はおそらく世界的に見れば時代遅れの惨憺(さんたん)たるものになるかもしれない。

そもそも日本では、紙による文書管理と押印という2つのセットによって、社会の「信用」が成立している。テレワークの時代に、例えば何かの申請をするのにPCから用紙をダウンロードして署名捺印して郵送。そこでやっと申請が完了、という具合だ。いまだにひとつの作業に1週間近くかかるのが日本のビジネスの現場だ。

次ページ救世主となるのか「電子署名」、大企業ほど二の足?
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