渋沢栄一が「論語と算盤」の両立を力説した意味 「論語か算盤」の選別ではなく創造に結びつく

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だが、そうは言っても「かの力」だけでは、無から有を生み出すことはできない。「か」は2つの有を比較して選別するだけにすぎないため、新しいクリエーション、創造に結びつかないのである。

一方、「との力」は、一見すると矛盾しているようなもの同士を組み合わせることによって、そこにある条件が整うと、化学反応が起こり、それまで考え付かなかったような新しいものを生み出す力と考えることができます。(60ページより)

その典型的な例が「論語と算盤」だ。

算盤をしっかり勉強し、ある程度理解が進んでから論語の勉強をするとか、あるいは損得感情は後回しにして、まずは道徳を重視して仕事を進めるという人は多いことだろう。しかし栄一は、論語と算盤に優劣をつけることなく、一緒に進めていこうと主張しているのだ。

たしかにビジネスを効率よく回していくためには、「かの力」で選別することのほうが適しているだろうし、少なくとも目先の効率は上がるかもしれない。ただ、あくまでそれは「いま、ここにあるもの同志の選別」にすぎない。したがって、それを繰り返していると、いつかは尻すぼみになってしまう。

一方「との力」は、先に触れたように一見すれば矛盾しているし、なかなか答えが出るものでもない。

論語と算盤を組み合わせて何が生まれるのかは、いまとなれば、ある程度の答えが見えているものではある。だがそれは『論語と算盤』が世に出て100年近い年月が経過し、さまざまな事例が積み上げられてきたからだ。

はっきりするまでは相応の時間がかかる

「との力」を用いることで何が生まれるのかがはっきりするまでには、相応の時間がかかるのである。見えてくるまでじっと耐える忍耐力も求められるだろう。そのため、なんの成果も出てこない段階では、無駄に思えるかもしれない。

でも、その時間の経過をじっと耐えているうちに、矛盾や無駄の中から、「あ、これはいける!」というものが、パッと眼前に現れます。それによって飛躍が生まれます。(62ページより)

これからの時代はAI(人工知能)社会だと言われており、AIが人間の仕事を奪うことになるという話もよく聞く。

つねにビッグデータからデジタルの0.1という「かの力」によって、過去のパターンを読み込み、情報を処理して判断していくのがAIだ。AIは絶対に物忘れをしないし、物事を選別するスピードも人間の能力をはるかに超えている。しかも人間は相当量の作業をこなすと疲弊し、休息が必要になるが、コンピュータであるAIが疲れることはない。

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