渋沢栄一が「論語と算盤」の両立を力説した意味 「論語か算盤」の選別ではなく創造に結びつく

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社会人になったばかりのころは期待や希望を胸に秘めていたかもしれないが、10年もキャリアを積めば、夢よりも現実が先に立ってくるものだ。

なかなか変えられない過去の慣行、上位下達で行われる命令系統、複雑な人間関係など、さまざまな要因に絡めとられ、次第に「組織の論理」に巻き込まれてしまうからだ。しかも組織の規模が大きくなるほど、その傾向は強まっていく。

ならば転職という選択肢もあるだろうが、そこには勇気が必要となる。ましてや現在の職場において“夢はないけれど生活は安定している”のであれば、ますます転職しようという方向に気持ちを切り替えることは難しくなる。

とはいえ、いま安定していると感じている職場は、本当に安定しているのだろうか? 渋澤健氏はその点を指摘している。

会社が大企業であったとしても、いつリストラされるかわからず、M&Aによって人員が削減するケースもあるだろう。つまり現時点では、「一生涯、安定した生活が保証されるかどうか」などということは誰にもわからないのだ。

未来を信じろ!

それは栄一にしても同じで、必ずしも順風満帆で「日本の資本主義の父」と呼ばれる地位を築いたわけではない。大きな時代の変化を受けて、幾度となくキャリアチェンジを余儀なくされ、「4度目の正直」でようやく自分が本当にやりたいことにたどり着いたのだ。

渋沢栄一の三度の挫折
挫折①元々は尊王攘夷派の志士だったのに、若気の至りのクーデターに失敗して徳川慶喜に仕えることになった。
挫折②第二のキャリアがスタートしたと思ったら、大政奉還でそこから先のキャリアが望めなくなった。
挫折③明治政府で第三のキャリアがスタートして大蔵省のナンバー2まで上り詰めたものの、トップとぶつかって辞職することになった。(32ページより)

こうした度重なる挫折にもかかわらず、なぜ栄一は生涯をかけて500社もの会社を立ち上げ、日本の経済力を高めることに貢献できたのか? この問いについて渋澤健氏は、未来を信じることができただけでなく、自分の夢を諦めなかったからだと答える。

事実、栄一は『渋沢栄一訓言集』で次のように語っている。

目的には、理想が伴わねばならない。その理想を実現するのが、人の務めである。(33ページより)

さらに『渋沢栄一訓言集』には、以下の言葉もあるという。

無欲は怠慢の基である。(33ページより)

夢には、欲につながる側面がある。「こうしたい」「ああしたい」という欲求があるからこそ、人は一生懸命になって、事に当たれるということだ。

次ページよりよい社会の実現に対する欲を率先垂範した
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