仕事がつらい人は「慣性の法則」に乗れていない 超簡単!数学的思考が人生をラクにする

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人生は有限です。ハイデガーにもメルロ=ポンティにも大きな価値はありますが、そればかりにエネルギーを費やしていたのでは、加速する前に自分の人生が終わってしまうかもしれません。自分を鍛えるのも大事だけれど、大事なのは論文を書くことであって、その準備だけしていても仕方がない。

助走でエネルギーを使い果たしてしまったら、ジャンプするときには加速どころか失速してしまいます。

F=maを用いれば力の配分を考えられるように

ちょうどそのとき、私は『ゲーテとの対話』(エッカーマン/山下肇訳/岩波文庫)という本を読んでいました。そこで出合ったのが、ゲーテのこんな言葉です。

〈とにかく差し当たって大物は一切お預けにしておくことだね。君はもう十分に長いあいだ努力を重ねてきたのだから、今は人生の明るいのびのびしたところへさしかかったときなのだ。これを味わうには、小さな題材を扱うのが一番だよ。〉

なるほど! ゲーテがそう言うならきっと間違いないはずだ!――この言葉にも背中を押されて、私はハイデガーとメルロ= ポンティという「大物」を自分の荷台から降ろしました。

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そうなれば、すぐにでも手の届く「小さな題材」はいくらでもあります。

そこからの1年間で、私は立て続けに4〜5本の短い論文を書き上げました。「m」を小さくしたことによって、まさに明るくのびのびと加速度を上げることができたのです。

なにしろ運んだ荷が軽いので、かつて目指していたような偉大な思想家への道は遠くなりました。しかし書いた論文が評価されて、大学での職を得ることができたのです。

人生の節目節目で、F=maの考え方を用いてみると、今加速するときなのか、重荷を降ろすときなのか――自分を俯瞰して、力の配分を考えることができるようになるでしょう。

齋藤 孝 明治大学教授

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さいとう たかし / Takashi Saito

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著者、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』(岩波書店)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『質問力』(筑摩書房)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)ほか多数。著書発行部数は1000万部を超える。

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