今回私が『ムー一族』や『3年B組金八先生』にハマったのは、ストーリーが優れているからだけではなく、余計な編集のない「まるごと再放送」がゆえに、画面の端々からにじみ出てくる数々の瑣末事によるタイムトリップ感が、心地良かったからである。
6月15日放送の『ムー一族』(第21話)の生放送(当時)の中で、ヤクルトスワローズの初優勝が報じられたシーンや、『3年B組金八先生』の「第1シリーズ」で、田原俊彦が美術教師の名取裕子に恋をして、そのバックでオフコース『さよなら』が流れるシーンなどは、53歳の私の首根っこをつかんで、70年代後半にぐいっと引き戻した。
昭和のアーカイブには「リモート林檎殺人事件」企画や「リモート贈る言葉」企画は要らない。権利関係のクリアが大変なのかもしれないが、絶対に「まるごと再放送」がいい。できればCMも当時のものを流してほしいと(半分冗談、半分本気で)思っている。
そんな「まるごと再放送」需要について、TBSには大きなアドバンテージがある。今回私が「TBSドラマ・アーカイブ漬け」になって気づいたことは、『ムー一族』『3年B組金八先生』『岸辺のアルバム』というTBSの70年代傑作ドラマに共通する「ある感覚」である。
「あの頃のTBS」が中高年層を魅了
「インテリジェントでリベラルな感覚」とでも言うべきか。それは誤解を怖れずに言えば、80年代を制したフジテレビや、90年代以降を制し続けている日本テレビの対極にあるもので、TBS自身も、他局との戦いの中で徐々に手放したように思える感覚だ(ただし、関東AMラジオ界の王者に君臨し続けるTBSラジオには、いまだに残っている)。
「あの頃のTBS」に息づいていた「インテリジェントでリベラルな感覚」は、元テレビっ子の中高年が、とても懐かしく渇望するものだろう。その渇望に対して余計な編集無しの「まるごと再放送」を展開し、「Paravi」やCS「TBSチャンネル」などで収益化することに新しいビジネスチャンスがあると考えるのだが、どうだろうか。
「テレビ離れ」が叫ばれて久しいが、ならば、人々が「離れ」ていなかった頃のアーカイブで勝負すればいいのだ。TBSはその屈指の「アーカイブ力」を活かして「まるごと再放送」をもっと押し出すべきだと思う。まずは、山田太一脚本のもう1つの傑作、『ふぞろいの林檎たち』の全話配信を希望したい。
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