フェイスブック「リブラ」が犯した致命的なミス 「デジタル通貨」覇権争いに突如起きた異変
「リブラ2.0」でも、バスケット通貨型のリブラ(オリジナルのリブラ)は、計算上の通貨として一応残るものの、その位置づけは、大幅に低下することになります。そして単純に各国の通貨にペッグするステーブルコインとして、各国通貨建てのリブラを発行するというのがメインの発行形態となります。これは、当初の計画では、各国当局からの認可が得られないとみたリブラ協会が、追い詰められて行った修正であるものとみられます。
しかし、はたしてこの変更は、リブラ協会にとって望ましいものだったのでしょうか?
「バスケット通貨制」という隠れ蓑をまとって、複雑でわかりにくいものとなっていた仕組みが、「各国通貨をそのままデジタル化して発行する」という極めてシンプルな仕組みになってしまったことにより、民間企業による通貨発行の是非や、それによる通貨主権の侵害といった問題が、かえって赤裸々に明らかになってしまったように筆者には見えます。
リブラの方向転換は「改悪」
例えば、「ドル建てのリブラ」というのは、まさにドル紙幣をデジタル化した「デジタル・ドル」を発行することを意味しており、そうしたことを、アメリカの財務省やFRBが、銀行ですらないリブラ協会に許可することは、かなり考えにくいものと思われます。
もちろん、リブラ協会も何かしらの成算があって、こうした方針転換を行った可能性も否定できません。しかし、長年にわたり通貨の動向を見てきた筆者には、今回の各国通貨建てリブラへの方針転換は、むしろ各国当局の姿勢をさらに硬化させてしまう「改悪」であったように思えてなりません。
拙著で詳しく解説したように、各国の中央銀行は自らデジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)を発行する動きを強めています。
すでに中国の「デジタル人民元」やカンボジアの「バコン」などが試験運用を開始しており、日本でも「デジタル円」の実現へ向けた協議会が発足するなど、コロナ禍の裏でデジタル通貨の覇権争いは激しさを増しています。IT企業、民間銀行、中央銀行の三つ巴の争いが続く中で、フェイスブックのリブラは大きく後退したのではないかというのが筆者の見立てです。
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