フェイスブック「リブラ」が犯した致命的なミス 「デジタル通貨」覇権争いに突如起きた異変

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当局からの厳しい批判とメンバーの離脱が続くなか、リブラ協会は今年4月にリブラ計画の改訂版である「リブラ白書2.0」を公表しました。主な変更点は、次の4点です。

第1に、バスケット通貨にリンクする「多通貨型のリブラ」(multi-currency Libra)に加えて、「単一通貨型のステーブルコイン」(single-currency stablecoin)を追加することです。

第2に、マネーロンダリング対策を強化する施策が列挙されています。さらに今年5月にはリブラ協会の初代CEOに、ブッシュ政権とオバマ政権で財務次官(マネロン・テロ資金対策)を務めたスチュアート・レビー氏が指名されました。

第3に、5年後に予定されていた、クローズド型からオープン型のブロックチェーンへの移行を断念しました。つまり、ビットコインのように、誰でも自由に匿名で参加できるデジタル通貨を目指すことを諦めたということです。

第4に、自己資本バッファーの保有、リブラの買戻し停止条項の導入などにより、取り付け騒ぎが起きても、リブラ・リザーブ(準備金)に不足が生じないようにするための安全策を講じるものとされています。

「単一通貨型」という致命的な悪手

これらの対策は、いっけん現実的な対応に見えます。フェイスブックも、そう考えたからこそ、このような対策を打ち出したのでしょう。しかし、筆者の目には「改悪」にしか見えませんでした。実際、「リブラ白書2.0」の公表以来、リブラに対する期待は急速にしぼんでいきました。いったい何が悪かったのでしょうか。

先に挙げた4つの変更点のうち、筆者が「悪手」だと思ったのは、リブラを「多通貨型」から「単一通貨型」に変更するとした点です。

つまり、多通貨型のリブラ(オリジナルのリブラ)のほかに、各国通貨と同じ価値を持ち、等価交換ができる「ドル・リブラ」、「ユーロ・リブラ」、「ポンド・リブラ」、「シンガポールドル・リブラ」などをリブラのネットワーク上で取り扱うことにするというのです(円リブラについては、なぜか言及がありませんでした)。

この変更により、もともとの提案であった「多通貨型のリブラ」は、もはや独立したデジタル資産ではなくなり、各国通貨建てのリブラを計算により合成したもの(digital composite)にすぎなくなります。

この修正は、各国通貨建てリブラの「追加」であると表現されていますが、むしろ、単一のグローバル通貨を立ち上げるという当初の野心的な計画を断念する大幅な「方針変更」であると捉えたほうがよいでしょう。フィナンシャル・タイムズ紙も、この点を「当初計画からの大幅な後退」と評しています。

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