フェイスブック「リブラ」が犯した致命的なミス 「デジタル通貨」覇権争いに突如起きた異変

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とくに、VISAとマスターカードというクレジットカードの大手2社が脱落したことは、直ちにリブラで決済できる店舗が少なくなってしまった点で、影響が甚大でした。脱落組の多くは、いずれも金融関連業務を中核としています。

彼らが脱退した背景には、リブラの構想が発表されて以降、各国の金融当局から、辛辣な批判が相次いだことがあり、当局と敵対するポジションに身を置くことは肝心の本業にとって得策でないと判断したものと見られます。

なぜ金融当局は、リブラ計画を眼の色を変えて批判したのでしょうか。紙幅の都合で詳細は省きますが、ポイントは下記の3点です。

眼の色を変えて批判した理由

(1)マネーロンダリングへの懸念

リブラ計画には、「リブラのブロックチェーンは匿名性のものであり、ユーザーに現実世界のアイデンティティーとはリンクしない複数のアドレスを持つことを許容する」という一文がありました。

つまり、リブラがいったん発行されれば、それを利用するのは「これまで銀行口座を持てなかった金融弱者」だけとは限らず、高い匿名性を悪用して、麻薬取引の売人やテロリスト、犯罪者などもリブラを利用する可能性が危惧されたのです。

(2)利用者保護への懸念

第2に、利用者保護や金融秩序への懸念があります。リブラは、利用者から法定通貨を預かって、同額のリブラを発行するというビジネスモデルになっています。このため、人々が何らかの理由でリブラやフェイスブックに対して不安を抱いた場合には、いっせいにリブラを返却し、法定通貨に換えるといった行動に出る可能性があります。

これは、まさに銀行に対する「取付け騒ぎ」と同様なパニック的な状況です。しかも、リブラはグローバルに使われる通貨ですので、こうした混乱が世界的な規模で起きる可能性があります。

(3)通貨主権の侵害

最後に、最も肝心なことは、リブラが目指しているものが「まさに中央銀行である」という点です。これまで中央銀行が一手に担ってきた通貨の発行、通貨発行益の享受といった「通貨主権」(monetary sovereignty)を、銀行ですらない一介の民間事業者が担うことに対して、各国当局は強く反発しました。

なぜなら、リブラは主要通貨建ての預金や国債を裏付け資産として持つことによって価値を保証するとしていますが、そうした預金や国債に関する金融秩序を維持するために日々努力しているのは、各国の中央銀行や当局だからです。

こうした金融システムや通貨の安定のための仕組みに何ら貢献することはなく(まったくコストは払わずに)、でき上がった各国通貨の信認のうえに、自分たちの通貨を発行しようとしている点は、「いいとこ取り」と批判されても仕方のない面があります。

次ページターニングポイントとなった「リブラ白書2.0」
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