「泣きたい私は猫をかぶる」配信公開決断の背景 山本幸治プロデューサー語るアニメ作品戦略

✎ 1〜 ✎ 129 ✎ 130 ✎ 131 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

――マイナーメジャーというのは言い得て妙かもしれません。

いわゆる「皆さんの映画」といったところではないギリギリのバランスですよね。コロリドは画的にはすごく広いターゲットに刺さる画風なので、それを生かしたバランスのとり方も考えています。

ただそうは思いつつも、ひとりひとりの作家はそんな戦略を考えているわけではありませんので、計画通りになっているか分からない。企画当時はアニメファンが好きなアニメでありながらも、広い層に届くためのくさびを打っていけるような作品にしたいという意識で考えていました。

その後、脚本があがった後の打ち合わせの時に『君の名は。』の話をしたのは覚えていますね。企画がだいたい見えた頃に『君の名は。』のヒットがあって、岡田さんともすごいのがきたねという話をしたくらいでした。

だから直接影響を受けたわけではありません。ただ思いとしては、個人作家を前面に押し出すのではなく、「スタジオコロリド」をブランディングすることで、ポストジブリ的存在にできないかと思って画を描いていました。何本か作品を作っていく中でポストジブリを実現していこうと。それは戦略というものではなく、みんながそう思っていることだと思います。

次の作品は小学生もターゲットに入れていく

――例えば『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』が公開された時は、劇場に若い観客が多く来場しているなと感じたのですが、この作品もそういった若い層に訴求したいという思いはありましたか。

自分が手掛けている作品は人が大量に死ぬような作品がなぜか多く、そこはあまりメインターゲットにはしていません。しかし、スタジオコロリドは今おっしゃっていただいたティーンにも向けていますし、3本目の作品はもっと下の年齢層、小学生とかにも見せようというような、結構、意識的にターゲットを広げようとしています。

山本幸治/やまもと・こうじ 1975年生まれ。2000年フジテレビ入社。人気深夜アニメ枠「ノイタミナ」初代編集長として10年間ノイタミナを率いる。2014年アニメーション企画会社ツインエンジンを起業。「ハチミツとクローバー」「のだめカンタービレ」「東のエデン」「PSYCHO-PASS サイコパス」などのプロデュース作品を手がける。アニメーションスタジオ「スタジオコロリド」の代表も兼務 (写真:© 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会)

――アニメ業界の働き方に関して意識改革などはあるのでしょうか。

とにかく業界全体が変わっていかざるをえないなという意識は間違いなくあります。コロナ以前からあった、働き方改革も待ったなしという状況です。

ずっと続いてきた、フリーのアニメーター全体で大きい会社みたいな、アニメ村という状態は、良い部分もあったんですけど、その弊害もすごくありました。そこは絶対に変わってしまうだろうなと思います。

従来の作り方で進めた方が生産性は高いので、変わらないスタイルで作り続ける制作会社も多いと思います。デジタルにすれば生産性が高まるわけではありません。ワークフローにおいては、行程数が上がっていたりもします。ただデジタルだったら例えばリテイクがうまくいくとか、精度みたいなところは上がる。

アニメ業界も本数が多いと言われながら、製作本数はずっと増え続けてきました。そうした深夜アニメっぽい作り方に今までみんな乗っかっていったんですが、全部はなくならないとしても、今後は作ることができる人たちが限られてしまうでしょう。今のままのスタイルはいずれ崩壊するだろうなと思っています。

壬生 智裕 映画ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事