「泣きたい私は猫をかぶる」配信公開決断の背景 山本幸治プロデューサー語るアニメ作品戦略

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――佐藤順一監督はこの企画について、「岡田麿里さんと組んで、岡田さんが今描きたい物語を映画に、というところからはじまった企画でした」と語っていました。やはり岡田麿里さんへの信頼感が、この企画の始まりだったのでしょうか。

僕は「自称・岡田麿里の三番弟子」と言ってしまうくらい岡田さんが大好き。プロデューサーという立場ですが、シナリオの作り方の視点は岡田さんから教わりました。だから「三番弟子」と自称しています。

アニメファンなら岡田さんの脚本に定評があることはみんな知っている。なかには敬遠する人もいますが、岡田さんの脚本は、きれいなものをポンと出してきて泣かせるのではなく、ちょっとこれは何だろうなというような受け取りにくいものや、噛みくだかないとわからないものを出してくる。それは、人間の複雑さを描いているからこそで、それがわかった時にグッと入ってくると思うんです。

狙うは「マイナーメジャー」

――まさにそれが岡田作品の魅力だと思います。

そういう意味で主人公のムゲがみんなに愛されるのかが心配だったんです。今回のムゲに関してはちょっと変わった子に見えますが、とても複雑な心情を持っています。自由奔放のようでいて実はそれほど自由じゃない。すごくKYなようでいて、KYじゃない。この複雑さこそが肝にもなっています。

主人公ムゲは変わった子にみえるが、とても複雑な心情を持っている。その設定も岡田麿里脚本作品の魅力だという © 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

岡田さんはそう言われて喜ばないかもしれませんが、岡田さん自身がそんな感じなんですよ。すごく親しみやすいんですけど、繊細さもあるし、一見、自由に見えるけど、実はしっかり空気を読んでいる。それが岡田さん特有のキャラクターの魅力にもなっていると思っているんです。

(『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』などを手がけたベテラン演出家の)佐藤順一監督自身が言っていますが、その脚本を、娘をめでるような感じでコンテにしてくださった。それを見た時に、この組み合わせはすごくよかったなと思いましたね。結果、これは大丈夫。十分ムゲを愛せるなと思いました。

――この作品は、いわゆる萌えアニメといった作品ではなく、幅広い層に受け入れられる作品だなと思ったのですが、ターゲットはどの層を狙っていたのでしょうか。

それは結構難しい話で、スタジオコロリドのオリジナル映画を作り続ける戦略は、「ホップ・ステップ・ジャンプ」で考えています。1本目は『ペンギン・ハイウェイ』だったんですよ。2本目の本作で初めてオリジナルに挑戦して。3本目もオリジナルの準備をしているところです。

ターゲットという点でいうと、この作品の企画を考えている時はまだ『君の名は。』が公開されていなかったので、明確な成功例がなかったんです。当時はやはりスタジオジブリやピクサーみたいなところを想定してロードマップを引いていました。萌えアニメといったコアなファンに寄りすぎた作品は、時に深夜アニメにおいてはそこが強みとなるんですが、僕は「マイナーメジャー」みたいなところを狙いたいと思っています。

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