「無観客の競馬」がこんなにも盛り上がった要因 ネット投票だけでも売り上げは前年比1割減

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国枝調教師は「気持ちが高まってしまうとスタートでタイミングが合わないときがある。うまくグランの後ろに行っているんだけど、インディの外に出そうと思ったのに内に入ろうとしたようだ。この前みたいに伸びる感じがなかった。見た目は何ともなかったけど、やっぱり中2週かなあ。負けるシーンは想像していなかった。何か、夢がしぼんだなあ……」と完敗に落胆していることが電話からも伝わった。

それでも「仕方ない。まあ、秋があるから」と気持ちを切り替えた。芝GⅠ8勝目の新記録は秋に持ち越し。国枝調教師は「これだけの馬をこのまま終わらせるわけにはいかない」と有馬記念直後と同じ言葉で巻き返しを誓った。

勝ったのはグランアレグリア。同じノーザンファームの生産馬でノーザンファーム天栄の調教馬。1歳下の桜花賞馬が女王の野望を打ち砕いた。正攻法で脚をためると爆発的なスピード能力で直線突き放し、桜花賞以来のGⅠ2勝目を挙げた。

池添謙一騎手は芝の塊が直撃して右目を大きく腫らしたが、執念の騎乗でGⅠ馬10頭の豪華メンバーの中でマイルの頂点に立った。アーモンドアイより0秒2速い上がり3F33秒7の切れ味を発揮。池添騎手は「芝の塊が直撃して脳振とうを起こしかけた。見えづらかったが必死で追った。最後は目のことも忘れた。日本一強いと思っているアーモンドアイや素晴らしいメンバーがそろっていたところで勝てた。グランアレグリアの価値を上げることができてうれしい」と胸を張った。

グランアレグリアは熱発で予定していたヴィクトリアマイルを回避していた。ノーザンファーム天栄の調教馬のワンツー。天栄の木實谷雄太場長は「桜花賞の勝ち時計はアーモンドアイよりも速かった馬。期待したようにスピード能力を発揮した。熱発後もスタッフがよく立て直してくれた」と喜んだ。

一方、アーモンドアイについては「ヴィクトリアマイルと比べても本来のパフォーマンスを発揮できていないと思う。また秋に強い姿をお見せできるようにしたい」と語った。競馬はわからない。歴史的なレースが続いた中で、誰もが期待したアーモンドアイのGⅠ8勝目がならなかったのが競馬のこわさだろう。これも競馬だ。

テレビの向こうのファンあっての競馬

ヴィクトリアマイル、オークス、日本ダービー、安田記念と続いた歴史的4戦で共通していたのはジョッキーはテレビやラジオで声援を送るファンの姿を意識していたことだ。

ルメール騎手も、松山騎手も、福永騎手も、池添騎手も無観客のスタンドに向かってガッツポーズを繰り返した。福永騎手のダービーでのスタンドへの一礼は無観客開催を振り返ったときに必ず思い起こす場面になるだろう。同様に筆者はダービーの騎手紹介で田辺騎手が両手を上げて笑顔を見せたことも忘れない。無観客でも競馬を支えているファンへ向けてのメッセージを忘れなかった。その気持ちは伝わっている。

素晴らしいレースも続いた。これも関係者の努力のたまものである。称賛したい。筆者も画面を通じての観戦だったが思いはしっかりと伝わった。

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