日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける

この国の将来を決める「新monopsony論」とは

ここに大きなインプリケーションがあります。新古典派では、完全競争の下、労働の価格は常に適性であるとされます。この理屈では、低賃金で働いている人は「スキルがないから低賃金」なのであって、その賃金を国がむりやり上げさせようとすると、経営者はその人を解雇するとされます。

「モノプソニー」では、労働者は企業に「搾取」される

対して「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します。つまり低賃金なのは一種の「搾取の結果」であり、必ずしもその人が低スキルだからではないと考えるのです。

「モノプソニー」の力は、特定の労働者層に特に強く働きます。例えば、低学歴、女性、高齢者、外国人労働者、移動が難しい人など、一般的に労働市場では弱者と考えられている人たちです。

特に、子どもを持った女性に「モノプソニー」の力が最も強く働いていることが、世界中の研究で確認されています。小さな子どもがいる女性は、現実として転職が難しい状況にあります。企業はその「足元を見る」ことができるため、賃金が相対的に低く抑えられるのです。

実は、男女の同一労働・同一賃金が実現しない原因のほとんどが「モノプソニー」だと説明されています。これもビッグデータによって確認されています。女性労働者の「労働供給の賃金弾力性」が年齢とともに下がっていくことが、その証拠です。

先進国では近年、産業構造の変化によって、「モノプソニー」の力が強くなっていると分析されています。

労働組合の力が強ければ「モノプソニー」の力は制限されます。しかし、先進国では過去数十年間、労働組合の機能が低下してきました。そのため、「モノプソニー」の力が強くなっていったと分析されています。

労働者が労働組合に加入しなくなった理由の1つは、労働組合が製造業に最も向いた組織だからです。製造業の場合は、そもそも設備投資が大きく、企業の規模が大きくなる傾向があります。また労働者のスキルが明確で、他の企業でも通用することが多いので、雇用主に対する労働者の交渉力が強くなりやすいとされています。

逆に企業の規模が小さくなりやすいサービス業が発達し、全産業に占める製造業の割合が低下すると、労働組合加入率が低下して「モノプソニー」の力が強くなるとされており、そのとおりのことが現実の世界でも確認されています。

このように、過去数十年間で「モノプソニー」の力が強くなり、労働者の交渉力が弱くなったことが、先進国で労働分配率が下がった原因だとも言われています。

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