若くして功を焦る人は先が長いことを知らない 楠木建×高森勇旗「すぐに役に立つことの儚さ」
「長く活躍している人」の特徴
楠木 建(以下、楠木):前回は、自分の思いどおりにならない状況下での思考と行動について対話しました。今回は「自分の能力が追いつかないときにどうするか」についてお伺いします。
環境は自分の外にあることですが、能力は自分の中にあるものです。誰でも「できるようになりたい」と思うのですが、能力というのは事後性が高い。能力構築には時間がかかる。しかも、どれほどの時間をかければよいのか、時間をかけたところでできるようになるのか、事前には判然としない。振り返ったときに初めてわかるものです。
とくにキャリアの初期段階や仕事を変えたときは、能力が追いつかないことへの焦りや不安がありますよね。
高森さんの場合、野球をずっとやってきてプロになるレベルの能力があった。ドラフトでも選ばれた。しかし、辞めた後に違う道に進むとなったら、また違う能力が求められる。その辺りは、どう考えていましたか? 例えば、野球を辞めたらどうしようか、自分にどんなことができるのか、など。
高森 勇旗(以下、高森):僕の場合、とくに最後の年はクビになることが濃厚だったので、ある種そのことをよく考えながら1年間を過ごしたともいえます。変な話なんですが、辞めることを前提に考えたら、プロ野球選手でいられる時間って非常に貴重じゃないですか。なので、ここは「究極の体験取材だ」って思って過ごしていました。
楠木:辞める前から切り替えている(笑)。相当切り替えが早いですよね。
高森:当時、ベイスターズは非常に弱いチームだったので、12球団でいちばん弱いチームの、2軍の、さらに試合に出られない控え選手って、もうこれ以上下はない最底辺の立場だったわけです。
改めて、そこから見るプロ野球ってどんな世界なんだろうっていう気持ちで見てました。そこで観察していたのは、「この世界で長く活躍している人って、どういう人だろう?」ということです。
楠木:どんなことが見えてきたのですか?
高森:プロ野球選手なので、当然ながら皆さん野球は上手です。なので、野球の能力っていうのはそこまで大きな問題じゃないのです。ポイントは、「長く」活躍するというところです。短期的に活躍するには運も絡んできますが、長期となると運の要素は限りなくゼロになります。