若くして功を焦る人は先が長いことを知らない 楠木建×高森勇旗「すぐに役に立つことの儚さ」

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高森:そこで見えてきたのが、あまり信じてもらえないかもしれませんが、「あいさつができる」「目を見て話す」「約束を守る」「義理を通す」といった、人間としての核のようなものがあるかないか、という部分がそれらを分けるのではないかということです。

高森 勇旗(たかもり ゆうき)/1988年生まれ。富山県高岡市出身。中京高校から2006年横浜ベイスターズに高校生ドラフト4位で入団。田中将大、坂本勇人、梶谷隆幸らと同学年。2012年戦力外通告を受けて引退。ライター、アナリスト、マネジメントコーチなど引退後の仕事は多岐にわたる

例えば、ベイスターズには、25年もプレーされた三浦(大輔)さんというスターがいました。ある年、ケガで2軍に落ちてきたんですね。三浦さんというのは絵に描いたような人格者なんです。なので、2軍の監督コーチをはじめ、裏方さんもみんな三浦さんが早く復帰できるように協力し始める。

復帰登板した試合は、チーム全員が「勝つ」というエネルギーであふれる。それはそのまま三浦さんに注がれるんですね。なるほど、もしかしたら長く活躍する秘訣はこういうことなのかもしれないと観察していました。

楠木:それは、この機会にちょっと観察してみようという醒めた目でないと見えてこないことですね。

高森:プロ野球の世界であっても、長く活躍する秘訣は野球のスキルではない。人間として自分が成熟するということは、もしかしたら究極の汎用性なのではないかと思いました。今、エクセルのショートカットキーとかは知らないけれど、プロ野球という世界で何か大切なことを学んだんじゃないかという確かな手応えはありました。

「下積み」の実態

楠木:「あいさつにスランプなし」と言いますね。社会に出て求められる能力の基礎となる、何か汎用的なものをそこでつかんだということですね。

ところで、僕は高森さんの書く文章を読んで、高森さんのことを知りました。一読して文章がとてもうまいと思いました。プロ野球選手と文章能力はあまり結びつかないので、びっくりしたのですが、文章を書く能力は、元からあったのですか?

高森:これは、おそらく学生時代のときからあったと思います。

楠木:今、執筆活動以外ではどのようなことをされているのですか?

高森:企業のコーチングをやっています。

楠木:文章もコーチングも基底にあるのはコミュニケーション。共通していますね。ただし、以前から得意分野だったとしても、実際の仕事の中身としてはプロ野球とは大きく異なります。

駆け出しのときとか、これまで違った新しい仕事を始める際には、自分の能力が必要とされている水準に追いつかず、なかなか思いどおりにいかない期間がありますよね。いわゆる「下積み時代」ですが、ここをどう過ごすか。

僕の場合、大学院でのトレーニングを終えて、この仕事を始めた頃、さあ研究をやりましょう、とやり始めたのですが、今から振り返れば、頓珍漢なことばかりしていました。誰も僕のことなんて知らないし、誰にも認められない。空回りに明け暮れていました。

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