知識の量に比例して人間は考えなくなる--『自分の頭で考える』を書いた外山滋比古氏(英文学者・エッセイスト)に聞く

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 ただ、その忘れることは100%の忘却ではなくて、自分の価値観に基づいて、選択的にする。大事でないことはどんどん忘れたほうがいい。この区別は実際にはむずかしいが、レム睡眠が本人には無意識、無自覚で大事な働きをしている。

情報・知識の仕分けをして、大事なものは頭の中に保持する、そうでないものは睡眠時に忘却へとえり分ける。

その選択的な価値基準は、その人が目覚めている日常生活の中で自然に持っている考え方、見方による。それが頭の中で一種の層のように蓄積されていて、自分の関心、価値観に合ったものはアミに引っかかり、そうでないものは通すという無意識の忘却作業をしている。

--『思考の整理学』は1983年刊行のリバイバルでした。

いま変化する読者と、物を書く、出版する送り手とで、必ずしも波長が合っていない。案外、新しい時代の入り口にいて、今までと違う世代が育っているのではないか。20年以上放って置かれたものに、それだけの読者の層があることが、その一つの例証になる。

彼らは本などに対しても違った感覚を持っている。この世代的な変化を社会としても注目すべきだ。若い人たちに対してネガティブな見方をしがちだが、そうではなくて新しい物を求めて模索している相当多数の、おそらく何百万単位の人がいて、これに対して送り手が十分応えられていないのではないか。

『思考の整理学』にしても完全には彼らの欲求をとらえていないと思う。本当はもうちょっと違うところに関心があって、それにきちんと触れた書物が一群出てくれば、おそらく多くの人がむさぼり読み、出版文化は一変するかもしれない。

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