知識の量に比例して人間は考えなくなる--『自分の頭で考える』を書いた外山滋比古氏(英文学者・エッセイスト)に聞く
100万部を超えた『思考の整理学』で「知ること(知識)と考えること(思考)の混同」を戒めた著者が、新刊で「考えることはおもしろい」と重ねて説く。実はその狙いは日本の「新しい文化」発信にある。
--「思考力エッセイ」が相次ぎヒットしています。
今までと違う世代が育っているようだ。読者が変わった。思考、つまり「考えること」の重要性を意識するようになった。
これらの本は必ずしも知識を肯定していない。知識だけではダメだといっている。今のように情報がたくさんになって、それに簡単にアクセスできると、むしろ知ることを超える必要があると漠然と感じさせられる。それには考えることが必要だと。
今の若い人たちには、ある種の不安感とか閉塞感、あるいは自己充実や存在感がはっきりしないという不満が漠然とある。知識だけ頭の中に入れて、いわゆる物知りになっていくことの価値がどれだけあるのかという疑問も持つ。
特に『思考の整理学』では冒頭のところの、自力では飛ぶことのできないグライダー型と、エンジンを持つ飛行機型というたとえが、多くの若い人にアピールしたようだ。自分はグライダー型を目指していたのかもしれない、飛行機型も必要だと。そこに今まで意識しなかった新しい興味を見出したようだ。
--考えることの前段として、知識を忘れることはいいとの記述も。
若いうちに積極的に忘れるのはいいことだ。忘れることで頭が整理される。知識が生のままで頭の中に詰まっている状態は思考に適さない。知識の量が多くなるに反比例して人間は考えなくなる。知っていれば考える必要はなく、わかっていることは知るに及ばないと思ってしまう。