報告書の冒頭にあるように、アメリカは1979年の中国との国交正常化以来、「関与を深化させれば、中国で根本的な経済と政治の開放が起こり、建設的で責任ある利害関係者(“stakeholder”)になる」という希望を抱き、対中関与の前提にしていた。
しかし実際は、過去20年で「改革は勢いを失い、失速し、逆行した」。報告書には「改革を阻止しようとする中国共産党の意思をみくびっていた」と反省の弁まで書いてあり、トランプ政権のこの方針転換にかける真剣さと覚悟がうかがえる。
2017年末に発表した国家安全保障戦略(NSS)で、対中関与アプロ―チが誤りだったことを認めてから2年余り。ようやくそれにとって代わる基本方針が示された。「原則にのっとった現実主義」への回帰については、「中国からの挑戦に対し、アメリカは中国との戦略的競争状態にあって、自国の利益を守るのだという認識で立ち向かう」と説明している。
協力が基調となっていた「関与」から、厳しい競争を前提とする対決姿勢への明確な転換だ。
「関与」を完全に捨て去るわけではないが、今後は「選択的かつ結果重視で、国益の増進をはかるものになる」のだという。
国民の意識レベルでも関係悪化が進む
関係悪化は、両国国民の意識のレベルでも進んでいる。
アメリカの世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが3月に実施した調査では、アメリカ国民の対中感情が過去最悪にまで落ち込んでいることがわかった。中国に対して「好感を持っていない」と答える人は2018年から増え続け、今回66%に達した。中国を「重大な脅威」と捉える人も、62%に上った。
中国でも、かつては、多くの国民が西側の社会に好感を持っていたが、最近のコロナ禍をめぐる対中批判を見て、「西側と協力して発展できるという期待は幻想と悟った」という指摘が聞かれる。
競争の質も変化している。
貿易摩擦のような経済利益をめぐるものから、価値、イデオロギーといった国家統治の根幹に関わるものへと性格が変異しつつある。「民主主義」対「権威主義」という、政治システムそのものをめぐる競争だ。
変異の理由は、もっぱら中国側にあるというのがアメリカ側の立場だ。中国共産党が最近、自分たちの統治システムのほうが「西側先進国」のシステムより有効に機能していると、盛んに宣伝するようになってきたからだという。報告書は、2013年に習近平国家主席が語ったという、「資本主義は必ず死に絶え、社会主義が勝利する」との発言をわざわざ引用し、対抗心と危機感をあおっている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら