5月20日には、ワシントンでさらに別の動きもあった。
トランプ政権が台湾に向けた、総額1億8000万ドル(約190億円)にのぼる高性能魚雷などの武器の売却を決めて議会に通知した。議会上院でも、中国を念頭に、アメリカで上場する外国企業への監視を強化する法案が可決された。政府と議会が足並みをそろえて、中国に牽制のメッセージを送ろうとしたことがうかがえる。
こうした一連の動きは、コロナウイルスの感染拡大が直接の原因となって起きたわけではない。しかし、相互に深く関連している。
ホワイトハウスが発表した対中戦略文書の中に、コロナウイルスへの言及はない。ただし、発表文の冒頭には「大流行への中国共産党の対応を見れば、アメリカ国民は従来にも増して、共産党がアメリカの経済利益、安全、価値に脅威を与えることがわかる」との説明がある。
さらに、野党・民主党系のカート・キャンベル元国務次官補は、「アメリカの対策の不足ぶりや内向きの姿勢が、中国のグローバルリーダーシップ追求を助ける結果になっている」と指摘。
コロナ禍へのトランプ政権の不十分な対応が、中国に有利に働いているという相関関係を説明した。現在、アメリカ内で拡大している、白人警察官が黒人男性を死なせた事件に端を発した抗議運動は、こうしたアメリカにとっての「悪循環」をさらに加速している。
コロナ禍で協力を期待した中国
中国側としては、コロナ禍は両国が争いを一時的に棚上げして、感染症対策で協力する機会となりうるという期待があった。しかし、トランプ政権は、むしろ「対決」を選択したため、かえって両国間の溝を深める結果を招いた。
当面の米中関係の展開について、中国側の外交専門家の大方の見方は、「大統領選までトランプ政権の対中政策は一層厳しさを増す」だ。民主党のバイデン陣営との間で、どちらが中国に甘いかをめぐって、宣伝合戦が展開されていることが大きい。
関係改善の余地があるかどうかについては、来年1月の新政権発足まで待って見極めるしかないとの意見が支配的だ。ただ、たとえジョー・バイデン前副大統領が勝ったとしても、急に中国側に融和的姿勢を取ることは望めない。
バイデン陣営で、外交政策を担当しているジェイク・サリバン元副大統領補佐官(国家安全保障担当)は、最近発表した論文で、「中国がアメリカのグローバルリーダーシップに挑戦しようと準備していることは、まぎれもない事実だ」として、トランプ陣営とあまり変わらない厳しい構えを示した。
米中間の緊張が、単なる経済利益をめぐる競争から、政治システム中心の競争へと、質的な変異を遂げたことで、両国関係から柔軟性が消えつつある。
(文:加藤 洋一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹)
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