ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ
5日にドイツの憲法裁判所がECB(欧州中央銀行)の国債購入策を違憲とする判決を出して、波紋が広がっている。
判決では国債購入策によって達成されるべき目的とそのために取られる手段とが釣り合っているか(法律用語で「比例性原則」という)の検討が不十分であるとし、ECBに対して3カ月以内に検証と説明を求めている。期限内に適切な説明がない場合、ドイツ連邦銀行(ECB傘下のドイツ中央銀行)が国債購入プログラムへの参加を取り止め、これまで購入したドイツ国債を売却することを命じている。
2015年3月に金融政策の一環で開始されたECBの国債購入策については、財政救済を禁じたEU(欧州連合)条約に抵触するとして、ドイツの法学者などが違憲審査を提起した。ドイツ憲法裁判所は2017年7月に条約違反のおそれがあるとして、欧州司法裁判所に法的見解(予備判決)を求めた。しかし、欧州司法裁判所は2018年12月にドイツ憲法裁判所の判断を退け、ECBの国債購入策が金融政策上の権限を逸脱せず財政救済にも相当しないとする法的判断を下していた。
EUとドイツの司法が正面衝突
EU法を解釈する権限は欧州司法裁判所に帰属する。予備判決で示されたEU法の解釈は既判力を有し、照会を求めたEU加盟国の裁判所だけでなく、すべての加盟国の裁判所を拘束する。ところが今回、ドイツ憲法裁判所は欧州司法裁判所の法解釈に疑問を呈し、越権行為に基づく予備判決は無効とし、ECBの国債購入策の一部を違憲とした。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は10日、EU法の統一的な運営が損なわれるおそれがあるとして、今回のドイツ憲法裁判所の決定に強い懸念を表明した。ドイツに対するEU法の侵害手続きを開始することも含め、法的手段を検討していることを示唆した。
今回のドイツ憲法裁判所の判決は、ECBの金融政策運営ばかりかEUの司法制度や一体性を脅かしかねない。今後3カ月以内に国債購入策が物価安定目標を達成するうえで不適切でないことをECBが証明しない限り、ドイツ憲法裁判所はドイツ連邦銀行(連銀)に国債購入の停止を命令する。ドイツの国内機関であるドイツ連銀はその決定に拘束される。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら