ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ
ドイツ国債はECBが購入する国債の約4分の1を占める。ドイツ連銀が購入を停止した場合も、ECBの資産買い入れ規模が必ずしも小さくなるわけではない。ドイツ以外の加盟国中央銀行がドイツ国債を代わりに購入し続け、ドイツ連銀が売却する同国債も購入するといった対応が可能だ。
また、欧州を直撃するコロナ危機対応でのECBの中心的な政策ツールは、今回問題となっている国債購入策(PSPP)ではなく、3月に新たに開始した時限的な国債購入策(パンデミック緊急購入プログラム、PEPP)だ。PEPPは今回の法的判断の対象には含まれていない。危機対応の強化が必要となった場合、PEPPの総額7500億ユーロの枠(8日時点で1529億ユーロを利用)を増額したり、ひとまず年内となっている期間を延長したりする判断を妨げるものではない。
だが、感染終息後のユーロ圏経済の回復には長期間にわたって緩和的な金融環境を維持する必要がある。景気低迷が長期化し、中期的な物価安定が脅かされる場合、追加利下げ余地の乏しいECBは、資産買い入れのさらなる強化で対応することになろう。
ドラギ前総裁の下、ECBが昨年9月に金融緩和策を強化した際、複数の理事会メンバーから異例の反対意見が噴出した。後を継いだラガルド総裁は、理事会内の不協和音の解消を目指し、政策決定の透明化や意思疎通の改善を掲げて就任した。
ECBの金融政策決定は、正副総裁と理事、輪番制で投票権を持つ加盟国中銀総裁の多数決で決まるが、最大出資国のドイツが合法性を疑問視する中での資産買い入れ強化のハードルは高い。ドイツがECBの重要な政策への参加を拒む事態となれば、ECBの金融政策運営の実効性やユーロ圏の一体性が疑問視されかねない。
反EU的な東欧の国々を勢いづかせる
今回のドイツ憲法裁判所の決定による波紋はそれだけにとどまらない。EUでは近年、ハンガリーやポーランドの旧東欧諸国を率いるナショナリズム政党が、EUが決めた難民の受け入れ分担を拒否し、自国の司法、メディア、教育機関、非政府組織(NGO)への介入を強める事例が目立つ。ハンガリー議会は最近、コロナ危機対応の一環で政府の権限を無期限で強化する緊急法案を可決した。
EUは両国のこうした行為がEUの基本価値違反に当たると糾弾し、EU条約第7条に基づく制裁手続きの開始や、基本価値違反を繰り返す加盟国に対するEU予算の配分を見直すことなどを検討している。両国政府はEUの国内政策への干渉を批判し、制裁決定に従わない意向を示唆するなど、対決姿勢を強めている。
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